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2010年2月14日 (日)

『戦 艦 武 蔵』 吉村 昭 著 を読んで

「なぜ、日本は負けると分かっていた戦争(太平洋戦争)をしたのか?」

 その答えの一つがここにあるように思いました。

 また、日本史の教科書には、「日本経済は1933年(昭和8年)ころには、世界恐慌以前の生産水準を回復した。とくに、軍需と保護政策とにささえられて重化学工業が目覚ましく発達し、工業生産額のうち、金属・機械・化学工業が1933年(昭和8年)には繊維工業をうわまわり、さらに1938年(昭和13年)には全体の過半を占めた。

 ここには、「なぜ、“経済”もまとも(実はまともではなかったわけですが)な時に戦争に向かったのか」、この時期の少し前に満州事変(1931-1933年)は起きていましたが、戦争が起きていたとは言えない、この時期に「軍需」で経済を回復していた答えの一つもここにあるように思いました。

(吉村氏のあとがきより)

 私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することから始めるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた。戦争は、一部のものがたしかに「煽動」して引き起こしたものかも知れないが、戦争を根強く持続させたのは、やはり無数の人間たちであったにちがいない。あれほど厖大な人命と物を浪費した巨大なエネルギーが、終戦後言われているような極く一部のものだけでは到底維持できるものではない。

(解説より)

吉村 昭氏の作品の底にある人間観、それは人間というものは何をしでかすかわからないということへの暗い好奇心と、何をやってもタカが知れているという、無常感をはらんだ徒労の意識である。

世界一の巨艦をもつことが、「何のために」という問いに対して、この作品は論理的には十分な答えを与えていない。にもかかわらず、その非論理こそが、暗黙のうちに人間を動かしてゆくものだということを、作者は十分に自覚している。“武蔵”の建造は、論理はどうあれ至上命令として確定される。このとき“武蔵”の効用や役割は不思議に第二次的な意味しか持たず“武蔵”はほとんど神話的な象徴としての意味をもってしまうのである。

“愚行”に専念しうる人間の奇怪さこそが、作者の暗い好奇心の対象になっていると言ってよいのである。

所員たちには、一つの確信があった。自分たちのつくっているこの巨大な新艦が海上に浮かべば、日本の国土は、おそらく十二分に守護されるだろうと。かれらは、この島国の住民の生命・財産が、自分たちの腕にゆだねられているのだという、強い責任感に支配されていた。

それらの小さな人間の群れの中で、おびただしい量の鉄で組み立てられた巨大な船体が、奇怪な生物のように傲然と横たわっていた。

“武蔵”は、19383月に起工、194011月進水、そして、19441024日に悲惨と言う言葉が適切か分かりませんが、戦没。

 “武蔵”は「第二号艦」であり、これに先立つ「第一号艦」が、あの“大和”である。193711月に起工、19408月進水、そして、19454月に戦没。ほぼ同型の戦艦になる。

 “武蔵”の戦没が、終戦までに、まだ一年あったこと、巨艦“武蔵”沈没の隠蔽があったことから、沈没時に生き残った乗組員も戦地に散らされ、その後、数名しか日本に生きて帰れていないことは、“武蔵”の暗い運命を物語っている。

 加えて「第三号艦」も作られている。“信濃”と言われている。19405月に起工、194410月進水、そして、194411月に戦没。「第三号艦」も当初同型の戦艦として起工された。しかし、航空機の急速な発達に注目した航空主兵主義が、山本五十六海軍大将、大西竜治郎海軍少将らを中心に海軍部内を支配しはじめ、その表れとして1941128日の開戦と同時に航空機による真珠湾攻撃と言う形をとったのである。そして、その二日後に行われたマレー沖海戦では、航空兵力が海上兵力に優位を示すことが決定的な事実となってあらわれた。そこで、“信濃”は、「航空母艦」として変更がされている。それでも巨艦であることに違いはなく、“大和”、“武蔵”より全幅、全長で数メートル上回っており、1961年にアメリカの原子力空母エンタープライズが登場するまで、史上最大であったということである。

 この巨艦巨砲主義の大幅な後退により、「第四号艦」も194011月に起工していたが、工事半ばで中止、解体されている。

日本史の教科書だけでは、感じることができない、「太平洋戦争」と「日本」という国がここにあると思いました。

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