論述試験対策2-アクチュアリーの役割
保険業法に定める生命保険会社における保険計理人の確認事項および関与事項について、簡潔に説明をすると。【H15 2(1)】
○確認事項
保険業法第121条(保険計理人の職務)に基づき、毎決算期において以下の確認を行う。
ü 責任準備金が健全な保険数理に基づき積み立てられているかどうか
当年度末の責任準備金が法令(保険業法施行規則第69条)に従い適正に積み立てられており、将来収支分析により将来の責任準備金の積立水準が十分であることを確認している。
ü 契約者配当または社員に対する剰余金の分配が公正かつ衡平に行われているかどうか
会社ならびに商品区分単位で、翌期配当所要額・全件消滅ベースの配当所要額でそれぞれ財源確保されており、当年度末ならびに将来のネット・アセット・シェアが一定の金額を確保していること
ü 将来の時点における資産の額として合理的な予測に基づき算定される額が、当該将来の時点における負債の額として合理的な予測に基づき算定される額に照らして、保険業の継続の観点から適正な水準を満たさないと見込まれるかどうか
将来にわたり、資産(時価評価)から資産運用リスク相当額を控除した額が、全期チルメル式責任準備金と解約返戻金相当額のいずれか大きい方の額および負債(責任準備金・価格変動準備金・配当準備金未割当額などを除く)を上回っている。
以上「生命保険会社の保険計理人の実務基準」に従い、計算を行う。
保険計理人は、上記確認事項について意見書を取締役会に提出した後、遅滞なく内閣総理大臣(実際には金融庁長官)にその写しを提出しなければならない。
○関与事項
保険業法施行規則 第77条(保険計理人の関与事項)
法第120条第1項に規定する内閣府令で定める事項は、生命保険会社にあっては、次に掲げるものに係る保険数理に関する事項とし、損害保険会社にあっては、前条各号に掲げる保険契約を除く保険契約について次の第1号から第4号まで、第6号及び第9号に掲げるものに係る保険数理に関する事項とする。
一.保険料の算出方法
二.責任準備金の算出方法
三.契約者配当又は社員に対する剰余金の分配に係る算出方法
四.契約者価額の算出方法
五.未収保険料の算出
六.支払備金の算出
七.保険募集に関する計画
八.生命保険募集人の給与等に関する規程の作成
九.その他保険計理人がその職務を行うに際し必要な事項
生命保険会計に関してアクチュアリーとして果たすべき役割について 【H8 3(2), H14 2(1)】
上記に加えて
ü 必要なソルベンシー・マージンの確保 【H8】
生命保険会社を取り巻くリスクが、増大かつ複雑化する中にあって、責任準備金だけではカバーできないリスクについては、ソルベンシー・マージンにより、カバーしていくことが必要となっており、保険業法第130条には、ソルベンシー・マージン基準の根拠規定が設けられている。
アクチュアリーは、それぞれの生命保険会社のリスク(保険リスク、予定利率リスク、資産運用リスク等)を把握した上で、それらのリスクに応じて、ソルベンシー・マージンの状況(具体的には、責任準備金の一部である危険準備金の積立、価格変動準備金の積立、資本勘定の充実、あるいは、含み損益の状況)について、チェックしていくことが、その役割である。
なお、ソルベンシー・マージンの状況をチェックするにあたり、一時点での静態的なチェックを行うだけでなく、生命保険事業環境の将来の変化を織り込んで、動態的なチェックを行うことも考えられる。
ü 管理会計の必要性 【H8】
生命保険会計の特徴の1つとして、「毎期の支払能力の評価によって、剰余(利益)が異なり、期間損益を明確にさせることが困難」という点があるが、一方、生命保険会社の経営者は、事業運営に際して、会社の損益の状況を把握する必要がある。
そこで、支払能力の確保を第一義とする法定会計とは別に、期間損益を把握するための管理会計(例えば、潜在価値会計等)により、損益の状況に関する情報を、経営者に提供していくことも、アクチュアリーの役割であると考えられる。
更に発展的な役割として次の事が考えられる。 【S62-4】
① 会社の方針、特に長期経営計画、資産運用計画、システム開発計画、商品計画、営業計画の企画、立案に参画すること
② 経営全般についての現状分析を行う事。特に外部環境として保険市場のマーケティング分析、内部環境としてはALM手法による資産と負債のバランスチェック等が挙げられる
③ 経営全般にまつわるリスクを把握し、リスク対策に寄与すること。
新たなリスクの発見と啓蒙 【H5 3(1)】
④ 経営全般に関する管理に参画すること。具体的には、予算管理、投資資産のポートフォリオ管理、EDPシステムの管理。(EDP:Electronic Data Processing 電子データ処理)
「アクチュアリー」の養成については、原則論は教科書、アクチュアリー講座等で学べるが、それ以上は自己研鑽を積むとともにOJTを中心に習得していく必要がある。
① 第一段階、アクチュアリーの専門的分野での実力を身につける段階。正確な数理計算力、論理的な思考力を身につける必要がある
② 第二段階、アクチュアリーに関係する広範な分野で、実務経験を積むとともに、他部門との関係を深める段階。生命保険事業を取り巻く環境についての理解力、業界内外の情報収集能力、他部門との交渉力、総合的な思考力を身につける必要がある。
③ 第三段階、経営に関する見識を高める段階。金融等の経済に関する理解を深めるとともに、専門分野のみならず経営全般について正確な判断力を身につける必要がある。
会計監査人(公認会計士)との関係 【H6 3(2)、1-61】
保険計理人は、責任準備金が健全な保険数理に基づいて積み立てられているか確認しなければならない(換言すればソルベンシーの視点)。会計監査人は、対外的にもディスクローズされる財務諸表を「企業会計原則」に基づいているか監査する義務を負っている。企業会計原則は必ずしもソルベンシーを第一義とはしていない。
現時点では、会計監査人と保険計理人は十分なコミュニケーションを保ち、会計監査人は基本的には保険計理人の意見を尊重する一方で、保険計理人は企業会計原則を考慮する、と言う運営になるものと思われる。
国際化への対応
国際会計基準への取り組み 【H14】
ü 企業等の経済活動が国境を越えて行われるようになり、会計情報が国際的に利用されるようになってくると、国ごとに会計原則に差異があることが大きな障害となる。国際的な会計基準の設定が必要になってきた。 【1-100,105】
その中で、資本市場の国際性により、公正価値のもたらす優れた均一性と標準化を理由に貸借対照表における資産と負債を公正価値にしようと進められてきている。 【別冊226号 p8】
ü 公正価値とは、「取引の知識がある自発的な当事者間における、独立第三者間取引において、資産が交換され、もしくは負債が決済される金額」、「もし条件を満たす取引があったであろうならその際に付く価格」であり、必ずしも実際に取引が幅広く行われている必要はないとされる。 【1-100】
と資料等をもとに書いてみたものの、所見が書けない。
現在の不確実な状況においては、「リスク管理(発見、把握、対策、啓蒙)」が鍵となるのだろうか。そうなると、ソルベンシー・マージンに収斂される?でも、ソルベンシー・マージンは昨年出題されている。
いずれにせよ、記述した内容は頭の中に入れておく必要はあるね。
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いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
投稿: 生命保険の選び方 | 2010年8月 2日 (月) 15時29分
はじめまして
浅谷輝夫氏で検索して本サイトにヒットしました。
私も生保会社に勤務し、30年になり、現在、大学の非常勤講師を兼務し、二足の草鞋で生活しております。興味深い内容のプログ、これから楽しみにしております。
投稿: 二足の草鞋 | 2010年8月 3日 (火) 13時23分
「生命保険の選び方」さん
いつもありがとうございます。
いつでも来てください。
「二足の草鞋」さん
”二足の草鞋”はスゴイです!
自分は一足の草鞋であっても、満足にこなせていないようです。あきらめずに精進していきます。
「浅谷輝夫さん」でヒットしたのは光栄です。
自分は、浅谷さんのブログを楽しみに見ていたのですが、体調を崩されてから更新がされず、どうされているのかなと思っております。
投稿: adler | 2010年8月 7日 (土) 10時47分