論述試験対策4-「リスク」について
「リスク」という表記が、かなり頻繁に使われている。今回は、可能な範囲で「リスク」を整理してみたい。
リスクとは
金融工学では、収益率の標準偏差を「リスク」としている。これは、標準偏差が大きいと価格が大きく下落する可能性が高くなるから、とのこと。
とくに、収益率が正規分布に従うとすれば、平均μは期待収益率(リターン)を表すもので、もう一つのパラメータσがリスクを表すと考えている。
「保険会社向けの総合的な監督指針」では「統合リスク管理」として、書かれている。
その意義
保険会社のリスク管理においては、財務の健全性の確保及び収益性の改善を図るため、それぞれの経営戦略及びリスク特性等に応じ、「保険引受リスク」、「信用リスク」、「市場リスク」、「流動性リスク」はもとより「事務リスク」、「システムリスク」等についも、適切なリスク管理を組織的・総合的に行うことが必要である。
特に、大規模かつ複雑な「リスク」を抱える保険会社においては、内包する種々の「リスク」を、「リスクカテゴリー毎」に適切に管理することは当然のこととして、これらの「リスク」を統合して管理する事が出来る態勢を整備することがより一層重要である。こうした「統合リスク管理」の枠組みはまだ完全に確立されてはいないが、保険会社においては、これまで相応の取組みが行われており、「リスク管理」の更なる高度化に向けて不断の取組みが必要である。
「保険検査マニュアル(保険会社に係る検査マニュアル)」では、「リスク」について、次のようなカテゴリーとして書かれている。
1.「保険引受リスク」:経済情勢や保険事故の発生率等が保険料設定時の予測に反して変動する事により、保険会社が損失を被るリスク
イ.管理対象とするリスク: 上記、保険検査マニュアルの定義をもう少し広範にとらえ、先の定義には含まれない「保険引受関連リスク」、例えば「保険引受時に適切な正味保有限度額を定めていなかったために大事故発生によって予想外の損失を被るリスク」(※)といったリスクについてもリスク管理の対象とすることが望ましいと思われる。 ♪損保的!
ロ.リスク管理手法: 一般に「リスク管理」とは、「リスクを適切に認識し、リスクの発現を防止、軽減または適切にコントロールすること」をいうので、「保険引受リスク管理」の実施においては、まず「保険引受リスクの適切な認識」が不可欠である。そのためには、保険引受における各プロセス(商品開発・改定、個別契約引受、出再、責任準備金積立 等)におけるリスクを具体的に洗い出すことが必要である。次に洗い出したリスク毎に、その内容に応じ、リスク発現防止、軽減または適切にコントロールする手法を定めることが必要になる。例えば、上記(※)例示のリスクであれば、「適切な正味保有限度額を取締役会で策定する」との規程を設け、実行することが考えられる。
ハ.リスク管理態勢: 上記リスク管理手法を確実に実施していくためには態勢整備が必要である。具体的には以下のようなことが考えられる。
ü 「保険引受リスク管理方針」を取締役会で策定し、詳細なリスクコントロール手法(例:各保険商品の改廃基準)、保険引受リスク管理に関する取締役会報告事項などを定めた関連諸規程を整備。
ü 商品開発部門、収益部門等とは独立したリスク管理部門を設置し、リスク管理部門が諸規程遵守状況のモニタリングを実施すること等により、牽制機能を確保する。
また、実務的には上記管理が形式的にならずに実効性を確保することが重要である。実効性確保のためには、取締役および関係部門社員の意識向上、リスク管理部門の人材配置なども十分留意する必要があり、具体的には定期的な研修開催、リスク管理部門にアクチュアリーを配置する、などの対応が考えられる。
2.「資産運用リスク」
「市場リスク」:金利、有価証券等の価格、為替等の様々な市場のリスク・ファクターの変動により、保有する資産(オフバランス資産を含む)の価値が変動し損失を被るリスクである(それに付随する信用リスク等の関連リスクを含み「市場関連リスク」とする)。なお、市場リスクは以下の3つのリスクからなる。
1. 金利リスク:金利変動に伴い損失を被るリスクで、資産と負債の金利又は期間のミスマッチが存在している中で金利が変動することにより、利益が低下ないし損失を被るリスク
2. 価格変動リスク:有価証券等の価格の変動に伴って資産価格が減少するリスク
3. 為替リスク:外貨建資産・負債についてネット・ベースで資産超又は負債超ポジションが造成されていた場合に、為替の価格が当初予定されていた価格と相違することによって損失が発生するリスク
「信用リスク(クレジット・リスク)」:信用供与先の財務状況の悪化等により、資産(オフバランス資産を含む)の価値が減少ないし消失し、保険会社が損失を被るリスクである。これらのうち、特に、海外向け信用供与について、与信先の属する国の外貨事情や政治・経済情勢等により保険会社が損失を被るリスクを「カントリー・リスク」と言う。
「不動産投資リスク」:賃貸料等の変動等を要因として不動産にかかる収益が減少する、又は市況の変化等を要因として不動産価格自体が減少し、保険会社が損失を被るリスクである。
3.「流動性リスク」:保険会社の財務内容の悪化等による新契約の減少に伴う保険料収入の減少、大量ないし大口解約に伴う解約返戻金支出の増加、巨大災害での資金流出により資金繰りが悪化し、資金の確保に通常よりも著しく低い価格での資産売却を余儀なくされることにより損失を被るリスク(資金繰りリスク)と、市場の混乱等により市場において取引が出来なかったり、通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされることにより損失を被るリスク等(市場流動性リスク)からなる。
LTCMの破綻、近年ではサブプライムによるリーマンショックもこのリスクによるとされている。
4.「事務リスク」:役職員及び保険募集人が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正等を起こすことにより保険会社が損失を被るリスクである。
5.「システムリスク」:コンピューターシステムのダウン又は誤作動等、システムの不備等に伴い保険会社が損失を被るリスク、さらにコンピューターが不正に使用されることにより保険会社が損失を被るリスクである。
保険検査マニュアルに掲げられている上記5つのリスクに加えて、保険商品の開発改定に関連するリスクは、ほかにも「法務リスク」、「風評リスク」等も考えられる。
ソルベンシー・マージンで認識するリスクもある
引き受けている保険に係る保険事故の発生その他の理由により発生し得る危険であって通常の予測を超えるものに対応する額として内閣府令で定めるところにより計算した額
保険リスク(R1)
第三分野保険の保険リスク(R8)
予定利率リスク(R2)
資産運用リスク(R3)
価格変動等リスク
信用リスク
子会社等リスク
デリバティブ取引リスク
再保険リスク/再保険回収リスク
最低保証リスク(R7)
変額年金保険のテキストでは、さらに「最低保証の金融リスク」、「最低保証の保険リスク」で分類している。
経営管理リスク(R4)
※損害保険会社用の一般保険リスクはR5、巨大災害リスクはR6 である。
他にも、次の「リスク」の記載を見つけた。
再保険で移転するリスクとして
ü 保険リスク(insurance risk)を移転する
ü 保険引受リスク(underwriting risk)および/または時間的なリスク(timing risk)を移転する
ü 危険保険料式再保険は、保険リスクのうち投資リスク、解約・失効リスク、事業費支出に係るリスクは元受会社が保有し続けることになる
医療保険(第三分野保険)では
ü (給付限度(日数限度)の設定の理由として、「モラルリスク」の回避、「集中リスク」の回避 をあげている。
ü 「カウンターパーティーリスク」という記載もある。これは、取引の相手方が債務不履行を起こすなどして、損害が発生する危険性を言う。
「リスク」の種類の多さに驚きであるが、これら「リスク」をマネジメントしていく必要があるわけである。
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コメント
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いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
投稿: 生命保険の選び方 | 2010年8月18日 (水) 19時10分
ありがとうございます。
また、是非遊びに来てください。
投稿: adler | 2010年9月11日 (土) 11時11分