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2010年10月

2010年10月31日 (日)

変額年金保険の商品特性

変額年金保険の商品特性の視点(生保1)より整理をしてみた。

成川さんのHp(お気に入り参照)においても参考となる資料が入手できますが、整理する上で適宜引用させて頂いた。ありがとうございます。

Ø  変額年金保険とは? 

変額年金保険は、本質的には特別勘定に設定された投資信託(または専用の運用ファンド)であり、本来は運用成果により受け取る年金額もしくは解約時や死亡時の受取額が変動するものであるが、これに何らかの最低保証を付与することで保険商品と位置付けられるものになる。

Ø  最も簡易な最低保証の例としては災害死亡保証があげられるが、現在、代表的な最低保証には、

     最低死亡給付保証:Guaranteed Minimum Death Benefit / GMDB:(普通)死亡時の元本保証

     最低生存給付保証:Guaranteed Minimum Living Benefit / GMLB:年金開始時のような生存時の最低保証。さらにGMLBでは、最低保証の権利行使時点を契約者が選択可能な途中引き出し額を保証する商品:Guaranteed Minimum Withdrawal Benefit / GMWB最低解約返戻金保証)も登場しており特に米国では人気を集めている。

²  年金受取額保証:Guaranteed Minimum Income Benefit / GMIB:年金開始時(満期)における年金受取額保証

更に、年金受取額保証は年金開始後も特別勘定にとどまるものと一般勘定移行するものに分類される。

特別勘定でのGMIBGMABと比べて平均でみたオプション行使期日が長くなることで最低保証コストは割安となる。また、一般勘定でのGMIBは、年金原資換算での保証水準は100%未満となるため、GMABよりは最低保証コストは割安となる。

高齢の契約者への適合性をより意識した元本保証性重視のトレンドの中でGMABがより好まれるようになってきている

²  年金原資保証:Guaranteed Minimum Accumulation Benefit / GMAB:年金開始時(満期)における年金原資保証

Ø  最低保証リスクの基本的構造   

   変額年金保険の“最低保証の金融リスク”とは、特別勘定資産の価値が変動することにより発生するリスクである。

   変額年金保険を管理するため、保険会社は契約者の運用資産を管理する「特別勘定」と、最低保証機能を担い事業費などを管理する「一般勘定」を持つ。「一般勘定」は、「特別勘定」からその残高の一定割合を「保険関係費用」として日々徴収し、事業費などの管理を行うと共に、特別勘定資産の最低保証をおこなっている。「一般勘定の引受リスク」は最低保証した金額と特別勘定残高との差額である。

   保証された保険金を行使価格とする「保険関係費用(最低保証料と予定事業費)+運用関係費用(信託報酬等)相当の外部流出のある原資産のプットオプション」を販売していることに相当する。

   変額年金保険では、一般に特別勘定の運用に保険会社は関与せず、また、投資信託に対応する手段が必ずしも市場で購入可能とは言えないため、一般的な金融商品に比べリスクコントロールの負荷は大きいと言える。

   また、変額年金保険の最低保証料は特別勘定資産の残高比例で日々徴収されることが一般的であるため、特別勘定資産が減少し最低保証の本源的価値が高まるほど(インザマネー)最低保証料収入が減少し、逆に特別勘定資産が増加し最低保証の本源的価値が低下するほど(アウトオブザマネー)最低保証料収入が増加するというミスマッチ構造を有している。

   さらに、変額年金保険の最低保証オプションは、その長期性と原資産が投資信託という特殊性から、市場で一般的に取引されるデリバティブでの複製が難しいという問題もある。

   変額年金保険の“最低保証の保険リスク”とは、死亡や解約などの保険事故により発生するリスクである。保険リスクは伝統的な生命保険にも存在するが、例えば死亡リスクに関しては、変額年金保険では販売側のニーズもあって、年齢・性別を問わない一律の最低保証料率(保険関係費用率)や職業のみによる危険選択を行うなど、保険リスクに関してややアグレッシブなものとなっている。特に一律の最低保証料率における、契約者の年齢・性別分布の実際と仮定の乖離に起因するミスプライシング・リスクは無視できないものになることがある。 

   さらに、解約率に関しては、変額年金保険では特別勘定資産が減少すると解約率が低下し、逆に特別勘定資産が増加すると解約率が上昇するといった事実はしばしば観測される。しかし、このような最適行使を前提とすると最低保証料の水準が跳ね上がり、契約者にとって受け入れ難い非現実的な水準となる可能性が高い。このため、実務では、非合理的な解約行動を織り込んで、経過時間や原資産と保証水準との関係等に応じた「決定論的なモデル」が用いられることが多い。このため実際の解約と仮定との乖離により、最低保証料が不足するリスクを抱えている。 

   (オプションの単価に影響する金融リスクと契約の残存量に対応しオプションの数量に影響する死亡や解約といった保険リスクとの積の構造をもつため、変額年金保険の最低保証オプションは金融市場での完全な複製は不可能である。

   変額年金保険では、保険期間が長い上に、死亡あるいは解約という非金融的な事象が関与するため、金融市場での完全な複製ができない「非完備市場問題」となり、一筋縄ではいかない。可能な限り金融市場と整合的な評価を行って、市場整合的評価が困難な部分を限界的に保険料計算原理等(5-36)で補うといった複合的視点がとられる。

   例えば、ヘッジ可能部分(例えば金融オプションに相当する部分)は「市場整合的評価」、ヘッジ不可能部分(例えば事業費支出や死亡等に関する部分)は「最良推定+リスクマージン」で評価して組み合わせることとされている。

   「市場整合」とは、「入手可能な現在の市場価格と整合的に、あるいは市場に整合的な原則や手法・パラメータを用いて導かれる」ことを意味し、「経済価値」とは、そのように評価された「資産または負債のキャッシュフローの現在価値」を意味する。

Ø  最低保証付きの変額年金の特徴~料率設定

定額保険などの伝統的な商品においては、個々の契約から発生する収支について、改善方向と悪化方向の変動要因が独立に発生し、「大数の法則」を前提に、契約群団全体ではそれらの収支がほぼ相殺されていると考えられる。また、契約群団全体の収支は改善方向と悪化方向でほぼ対称な確率分布を持っている。そのため、保険料や責任準備金の評価については、予定計算基礎率等を仮定した上での決定論的手法が採用されてきた。

しかしながら、最低保証の付いた変額年金の場合、当初の予想よりも特別勘定の積立金の変動が改善したときの収益は契約者に帰属する一方、悪化し最低保証額を下回ったときは、保険会社がこれを補うことになる。すなわち、市場価格の変化による損益の変動が悪化方向と改善方向とでは対称になると想定することができない。 

また、変額年金は「市場価格」という外的要因によって保険収支が左右され、かつ、複数の契約の損益が独立でなく一方向に収支が変動しやすいという点も従来の商品とは異なる。つまり、契約を多数保有することによりリスク分散を行うなどのリスクコントロールが難しく、「大数の法則」を前提とできない。(ただし、長時間に渡って新契約を獲得することによる時間分散の効果は期待できよう。)そのため、最低保証の付いた変額年金の保険料や責任準備金の評価においては、従来の大数の法則を前提とした「決定論的手法」だけでは必ずしも十分とはいえず、「確率論的手法」を導入することが不可欠となってくる。 

確率論的手法は、複雑な給付や複数のパラメータを持つ商品に対しても、将来の収支の期待値や分散などの確率分布を把握することができる点で優れている。確率分布を把握することで、期待値だけでは把握できないその商品の損益の特性を把握することができる。しかし、確率論的手法は計算負荷が大きく、また、計算する度に結果が異なる場合には客観性・透明性を確保しておく必要がある。また、特に最低保証に係る収支の確率分布を算出する前提として、将来の運用実績自体の多数のシナリオの確率分布に仮定を置く必要があるが、その分布にも様々なものが想定され、試算結果に大きく影響するため、客観性と保守性をもって設定する必要がある。

なお、確率論的手法により最低保証に伴う収支の確率分布を把握するだけではなく、決定論的なアセットシェア計算を用いて、最も確からしいシナリオや損益分岐点、その周辺シナリオによる収支を試算しておくと、期待される収支の水準や、運用環境の変化に伴う影響を把握しやすいだろう。

また、特別勘定資産の収益率が悪化する場合に、巨大損失の可能性があるものは、悪化シナリオを重視する手法が必要と考えられる。

Ø  商品の収益性の検証

商品開発時や発売後において収益検証を行い、商品のキャッシュフローの特性を知ると共に、会社全体の収益性・健全性に与える影響について検証することは、どのような商品についても必要なことである。ただ、最低保証付き変額年金のリスク特性が他商品と大きく異なることを考えると、とくに十分な収益性の検証を行っておく必要があるといえる。すなわち、損益の分布が非対称であり、かつ大数の法則が成立しないため、運用資産の分布について、一定の仮定を置いた上で、どの程度の確率でどの程度の剰余が得られるか、あるいは損失となるのかということを把握しておく必要があり、そのためには、「確率論的手法」によるキャッシュフロー計算が不可欠となる。その際、解約率は運用資産が最低保証を上回っているかどうかでも異なるものと考えられ、とくに最低年金原資保証付きの場合、運用資産が最低保証を下回っているときの解約率はかなり低い水準であることが想定されるため、解約率も運用資産に連動させたシナリオを用いることが望ましい。また、最低年金原資保証においては、年金開始の契約者の生存という確度の高い事象であることについても留意しておく必要がある。

Ø  最後に

例えば、変額年金は投資信託と比較されることもあり、変額年金を投資型年金と呼ぶことも可能と考える。日本においては、生命保険という位置づけから投資信託と比較して、税制面で優遇をされているが、米国においては、保険商品としての保障等が小さいようであれば、保険商品とみなされなくなることがある。一方、投資信託と変額年金保険(投資型年金)の費用構造では、投資型年金にあって投資信託にないものは『保険関係費用』であり、逆に、投資信託にあって投資型年金にないものは『証券会社への委託者報酬(販売会社分)』である。この2つの数字を比較すると、明らかに前者の水準が後者の水準を上回っている。

また、米国においては、変額保険の歴史は古いが、高金利で顧客の金利選好意識が高まった時(1980年代前半、1990年代後半など)は売れるが、そうでない時には相対的に低迷する傾向がある。

日本においても、最初は昭和60年の保険審議会答申を受ける形で、昭和6110月に業界統一商品として開発されたが、バブルの崩壊によって、顧客の期待を損なうこととなった。また、その後、一部経済の回復により、19994月からは、最低保証を組み入れた変額年金を一部の会社で販売開始された。2002年(H1410月)には銀行窓販売がみとめられたことが契機になって市場は大きく拡大した。2008年のアメリカ経済危機の影響により、顧客に対する最低保証の負担増加により、一部の販売各社では販売停止までに追い込まれている。

サブプライム問題に端を発し2008年度に本格化した世界的金融危機はデリバティブの価格(インプライド・ボラティリティー)を歴史的水準に高騰させており、これが長期化するようであれば、原資産(投資信託)のボラティリティーの制御等の変額年金保険の商品性の大こな見直しが必要になるかもしれない。

また、最低保証をすることについては、リスクをフルヘッジすることが不可能であり、保険会社としてリスクを減殺するためには、より多くの危険準備金も求められてくる。 

モデリング手法、統計手法、ヘッジング、リスク尺度など、これらの問題は変額年金保険に限らず、すべての保険商品のリスク管理や健全性規制にも関連しており、変額年金保険は時代のフロントランナーとして問題の所在を提起したものと捉えることができる。

この視点でのスタディーは継続しておく必要があると考えているが、変額保険は保障というよりも投資・貯蓄に限定した役割を顧客は求めていると捉える事が可能と思う。投資商品ともいえる変額保険に偏ることは、これまでの歴史を踏まえても十分に慎重な対応が必要であり、商品ポートフォリオを踏まえて十分に検討しバランス良く販売することが必要と考える。 

変額年金保険の最低保証の金融市場での完全なヘッジは困難であるが、部分的であってもヘッジの有効性を否定することはできない。 

ヘッジを利用して最低保証のリスクを軽減することが可能である。ヘッジには、変額年金保険の経済価値の変動リスクを軽減するための経済価値のヘッジ、損益計算書に現れるリスクを軽減するための会計価値(責任準備金)のヘッジ、株価の大幅下落等のストレスシナリオ下でのバランスシートを防衛するためのテイルリスクのヘッジなどがある。ヘッジを利用する場合には会社のニーズに適合した種類のヘッジを選ぶことが重要である。また、ヘッジに係るコストにも考慮を払う必要がある。さらに、変額年金保険の最低保証リスクを金融市場で完全にヘッジすることはできないので、ヘッジを利用する場合もヘッジ手段とヘッジ対象との経済価値のずれに常に注意を払う必要がある。 

再保険を利用して最低保証のリスクを軽減することが可能である。この場合も再保険に係るコストに考慮を払う必要がある。さらに、再保険会社の信用リスクの問題も発生するため、信用リスク管理や集中リスクを回避するなどの対策も検討する必要がある。  

さまざまなリスクの軽減手段を用いることにより変額年金保険の最低保証のリスクを軽減することは可能であるが、全てのリスクをなくすことは困難である。したがって、最後は会社の純資産を用いて最低保証を実施する必要が生じる。その場合でも確実に最低保証を行うためには、保有する変額年金保険のリスク量を会社の自己資本の一定割合に抑える必要がある。そのためにはリスク管理の観点から適正な販売計画を立て、それを上回る販売を行わないなどの販売コントロール策も検討しておく必要がある。

最低保証の付いた変額年金保険のリスクは主に資産の価格変動リスク(あるいは、「資産運用リスク」、統合リスク管理より)であり、これまで生命保険会社のアクチュアリーが伝統的な保険商品において取り扱ってきた死亡・発生リスクや解約リスクなどと比較すると、変動幅が大きく、大数の法則が働かないなど性格がかなり異なるものとなっている。このため、生命保険会社のアクチュアリーには、このようなリスクの分析や研究の面でさらなる役割が求められるであろう。 

2010年10月23日 (土)

「事業継続基準」について

「生命保険会社の保険計理人の実務基準」について、以下の問いに答えよ。

       事業継続基準について、その確認方法を簡潔に説明せよ

       事業継続基準未達となった場合、事業継続基準不足相当額を解消するために保険計理人が意見書に示すことができる経営政策の変更を5つ挙げよ。

       「事業継続基準」が創設された趣旨を踏まえ、生命保険会社経営におけるアクチュアリーの果たす役割について所見を述べよ。

なお、「事業継続困難の判断基準」及び「保険業の継続が困難となる蓋然性がある場合」についても触れること

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       H1322)参照可能なため割愛

       「生命保険会社の保険計理人の実務基準」第31条(事業継続基準に関する意見書記載事項)に次の5つが規定されている。これらの経営政策の変更は、ただちに行われるものでなくてはならない。

(ア)  一部または全部の保険種類の配当率の引き下げ

(イ)  実現可能と判断できる事業費の抑制

(ウ)  資産運用方針(ポートフォリオ)の見直し

(エ)  一部または全部の保険種類の新契約募集の抑制

(オ)  今後締結する保険契約の営業保険料の引き上げ

<事業継続基準の創設の趣旨>

本収支分析(3号収支分析)は、1号収支分析と異なり、会社全体の資産、負債、資本について行う。目的は、将来収支分析を通じて事業継続に必要な十分な資産が確保されているかを確認し、将来にわたって会社が事業を継続できるか否かを判断するものである。仮に、経営状況が悪化した場合においても本収支分析を通じて、保険契約者に多大な損害を与える前に、早期に発見・対処を可能とすることで、早期警戒システムの強化が図られる。

また、ソルベンシー・マージン比率における静的検証だけでは限界があるとの見方がある中で、動的検証として本収支分析が位置づけられる。

これまでの実務基準は、責任準備金積立水準や配当水準の適正性についての確認であったが、この事業継続基準は基準を満たせない場合には業務停止へと繋がることから、この意見書を取締役会に提出する保険計理人や、その計算実務にあたるアクチュアリーの重要性がさらに大きくなったと言える。

なお、事業継続基準確認には、例えば次の要件が求められる。

²  保険計理人の独立性

²  測定の客観性、公平性

<アクチュアリーの果たす役割としてのポイント>

(1)      社内への報告

3号収支分析を通じ、事業継続に懸念(純資産に不足が生じる懸念)がある場合には、その状況について経営者をはじめ関係部門に報告し、認識させた上で然るべき対応を図らしめる。

また、3号収支分析は3号基本シナリオに基づく決定論的手法である。

金利は直近の長期国債応募者利回りが横ばいで推移するものとしている。

社内においては、今後の金利の動向を踏まえる、あるいは1号基本シナリオの金利シナリオのような、まだ金利が下がることを想定した複数のシナリオに基づく収支分析を定期的に迅速かつ正確な収支分析を行えるよう整備することが望まれる。

(1)      事態を回避するための方策の提示

A)       毎年のフローの収益力の確保

ü  収益性・付加価値の高い商品開発

ü  保有契約高の拡大方策

ü  事業費の抑制

ü  資産運用の効率化

B)       資本・内部留保の充実

ü  危険準備金・価格変動準備金・その他任意積立金の計画的積増し

ü  劣後債の発行、劣後ローンの取組み

ü  財務再保険の利用

ü  基金の取入れ

ü  増資の取込み

C)       リスク量の縮減

ü  再保険の活用

ü  商品ポートフォリオの変更

ü  商品性の変更(計算基礎の変更ができる商品開発など)

ü  資産運用ポートフォリオの変更

ü  支払事由の見直し

これには新規契約の支払事由を見直す商品改定を行う方法と「基礎率変更権」を留保した既存商品について見直すことの両方が考えられる。

ただし、「基礎率変更権」を留保する場合、保険募集に際して、保険契約の内容が変更されることがある場合の要件(基礎率変更権行使基準を含む)、変更箇所、変更内容及び保険契約者に内容の変更を通知する時期、予定発生率の合理性を説明する必要があること。

また、1年ごとに、保険契約者に対して、基礎率変更権行使基準に該当するかどうか、その参考となる事項、及び基礎率変更権行使基準に規定する予定発生率に対する実績発生率の状況を示す指標の推移を書面で交付する必要があること。

以上より、現時点において、「基礎率変更権」の設定、行使については、とてもハードルが高い内容となっていることを認識しておく必要がある。

ü  医的選択基準の見直し

ü  諸利率(保険金据置利率、前納預利率等)の引下げ

B)       ALM管理

ü  定期的なキャッシュ・フローテストの実施

C)       経営全般にわたる提言

ü  ニューチャネルの開拓

ü  新規ビジネスへの参入

ü  子会社の設立、分社化

ü  子会社の統合・売却、株式化

これらは初期に多額な費用を要する可能性があるため、十分な収益検証を踏まえておく必要がある。

(2)      方策の実施状況監視

事態を回避するための方策の提示をした場合は、その反映が予定どおりに行われているかを監視する必要がある。

(3)      事態が生じた場合の原因の追究

原因を追究した上で、対応策の検討の一助とする。原因として考えられるものとして、例えば、次のものが挙げられる。

ü  多額の逆ざやによる経常利益の圧迫

ü  毎年の剰余と配当水準のアンバランス

ü  継続率の悪化による保険料収入等の現象

ü  死亡率、発生率の増加等による死差益の減少

ü  事業費が増加する一方、新契約の伸び悩み、継続率の悪化等による予定事業費枠が縮減し、費差益が減少

ü  資産と負債がミスマッチした資産配分

また、状況によっては、原因の分析に際し、潜在価値会計、価値基準会計等の別の会計方式(内部管理会計方式)を用いることにより、別の観点からのチェックを行う。

(4)      事態が生じた場合の対応の提示

H1322)②参照。加えて、

ü  新規ビジネスを行う際の「ソルベンシー・マージン基準」を維持できる範囲内での内部留保の取り崩し

ü  その他合理的な経営政策の変更

<「事業継続基準」を用いた判断>

(1)      法律上の破綻の判定基準となる事業継続困難の判断基準として用いられている。「保険業継続が困難である」時に、保険会社自らがその旨を申し出ることと規定されている。

ü  保険会社の財産をもって債務を完済することができないとき、又はその事態が生じるおそれがあるとき(債務超過状態:第1号)

ü  保険金の支払を停止したとき、又は保険金の支払を停止するおそれがあるとき(資金繰りに窮している状態:第2号)

ü  3号収支分析の結果から事業継続が困難であると判断される状態:第3

会社全体としての財政の健全性を測るための「資本十分性検証」に該当する

(2)      現時点では保険業の継続が困難である状況にはないが、将来において継続が困難となる事態に陥ることが懸念される場合、保険会社の破綻を既契約に対する契約条件の変更をすることで未然に回避する。この「保険業の継続が困難となる蓋然性がある場合」について。

ü  現時点では保険業の継続が困難である状況にはないこと

²  上記第1号、第2号の状態には無いことと推測されている

ü  将来の業務及び財産の状況を予測した場合に、契約条件の変更を行わなければ、当該保険会社の財産をもって債務を完済することができない等、保険業の継続が困難になりうることが合理的に予想できること

²  3号収支分析の結果生じた事業継続基準不足相当額は「資本調達等の経営政策」を実施しなければ、「ただちに実行できる経営政策の変更」だけでは解消しない、という趣旨の意見書が取締役会に提出され、それを受けた取締役会が「資本調達等の経営政策」を実行できない」ときに、事業継続の断念を申し出ることとなる。この場合、保険業による業務停止命令か、更生特例法適用を申請するか、いずれかになる。「契約条件の変更」はこの「資本調達等の経営政策の実施」の中に「他の経営改善努力の実施」とともに選択肢の一つとして加えられたもの、と考えられよう。

事業継続基準によって、保険計理人には、会社全体の財務状況の的確な把握・分析およびそれを踏まえた提言が求められている。

このような状況の中で、保険会社のソルベンシー・マージン比率に関しては、リスク係数の厳格化が進められている。平成2010月の大和生命の破綻や同年秋以降の金融危機の教訓も踏まえている。平成243月末より、この新基準を早期是正措置の指標とする予定となっている。

その中で、保険業法施行規則第79条の2、保険計理人の確認事項に「保険金等の支払能力の充実の状況が保険数理に基づき適当であるかどうか」が追加されている。

そこで、保険計理人は、事業継続基準を含めた経営に関与する重要な役割として、保険計理人の独立性、測定の客観性・公平性という要件を十分満たしていく必要があると考えている 

☆☆☆

ここでも、s-iwkさんより「事業継続基準のように会社全体に関わるようなものについては、アクチュアリー(あるいは保険計理人)が経営全般に関して提言していくことが望ましいような書き方になってしまいがちですが、漫然と書くと「ただ挙げてみただけ」と捉えられかねないので、挙げた項目についてアクチュアリーとしてどのような役割を果たせるのかを詳しく書くほうが説得力があります。」と指導頂いております。

少しは訂正をしたものの漫然感は拭えていないと考えております。これを読んで頂いている方からのアドバイス・講評を頂けると幸甚であります。

2010年10月17日 (日)

生命保険の新商品開発-トンチン年金

以前、ライフネットの岩瀬さんが、トンチン年金の必要性をブログに書かれていた。そこで、「トンチン年金」の商品開発について、留意事項及び所見を述べよ、という問題を設定してみた。

・・・・・と言っても、所見は難しいのですが、まずは論点を整理して考えていきたい。

最初に「トンチン性」とは、「保険会社向けの総合的な監督指針」に次の記載がある。

規則第53 条の7 1 項に規定する(社内規則等のこと)措置に関し、トンチン性の高い商品については、保険会社が顧客に対して、その商品特性について十分説明を行うための体制が整備されているか。

「トンチン性」とは、死亡者の持分が生存者に移ることにより、生存者により多くの給付が与えられる割合のこと。

「トンチン状態」とは、「アクチュアリー試験テキスト」に次の記載がある。

保険期間中に、責任準備金額>死亡保険金(給付金)額、となる場合が出てくることがある。いわゆる「トンチン状態」である。

そこで、ここでは「トンチン年金」について、死亡給付金額を引き下げ、更に解約率も織り込んで解約返戻金額を引き下げて、生存時に受け取れる年金額重視型商品とする。

背景・商品ニーズ、商品開発の必要性について

ü  規制緩和、少子高齢化の進行に伴い、死亡保障マーケットは成熟期に達し、医療保険等含めた生存保障マーケットが成長する中で、保険商品の多様化、複雑化が進んでいる。

ü  長期化する景気及び経済の低迷より、長期化する低金利状態、その中で、高齢化する社会において、老後の資金を安全、確実、有利に確保する方法が必要となっている。

ü  医学の進歩により難病、重病に罹った患者の延命措置も著しい向上を遂げているが、その結果、患者やその家族は先進医療を受けるための医療費等の経済的負担の可能性が高まることとなった。また、高齢化に伴う介護等の費用も大きな負担となってきている。

この種のニーズは従来の死亡保険ではカバーし難いため、生きるためのコストを賄うことを目的として、そのニーズが高まってきた。

ü  低解約返戻金型商品は従来の商品よりも同じ保険料であれば年金受取額が高くなることから、契約時に「今後解約することはない」と判断できる契約者にとっては、一定程度のニーズがあると考えられる。特に、高齢者にとっては、契約の見直しを必要としないケースも多いと想定され、高齢化社会の進行によりニーズが高まってくると思われる。一方、保険会社にとっても、料率面での競争激化が進行している中で、既存型商品市場の飽和・縮小による収益減少の補完を期待できるかもしれない。

契約者保護の観点について

一般的に、消費者保護の観点の一つについて、消費者を、消費者の利益を著しく害する条項を含む契約から守るべき、という考え方がある。低解約返戻金型商品、死亡給付金額の抑制について考えれば、保険数理技術的には妥当な商品であったとしても、契約者から見て誤解しやすい・理解し難いということであれば、この観点から問題となりうる。よって、当該商品の販売に際しては、解約返戻金が従来の商品より低いことについて、契約者への十分な情報開示と説明が必要である。

また、生命保険の超長期性をふまえれば、契約加入時は今後解約しないと判断していたとしても、契約者の生活環境・ニーズの変化に伴い、生命保険契約を継続する意味がなくなる可能性があり、それを加入時の選択による自己責任に帰すことが社会的に容認されるかどうかは疑問の余地がある。そこで、このような事態が発生することをできるだけ限定するために、契約者保護を担保できるような商品設計上の工夫は必要になろう。 

予定基礎率について

ü  予定死亡率

会社の過去の経験値をベースとしながらも、生命保険業界の経験値、再保険会社からの情報を収集する。また、トンチン年金という商品特性を考慮する必要がある。

保険引受上のリスクの方向性は生存側(死亡率が改善する方向)にあるため、使用する予定死亡率は、生保標準生命表2007(死亡保険用)というよりも第三分野標準生命表2007に近いと考えることができよう。 

また、年金開始後用としては、生保標準生命表2007(年金開始後用)がベースになるであろう。

ü  予定利率

年金となるため、保険期間は一般に長期となり、責任準備金が大きくなるため、予定利率の影響は大きくなると考えられる。

保険料計算に用いる予定利率の決定については、自社の運用利回りや新規投資の運用利回りなどをもとに、自社の将来の運用方針の変更の有無と将来の利回り予想などに基づき決定するのがその基本的考え方である。今後の運用方針を考える上では、該当する保険契約の解約等によるキャッシュアウトなど、「キャッシュフローの特性」も考慮する必要がある。

死亡率や事業費支出などと異なり、運用利回りはリスク分散やコントロールが難しく、将来的な予測も容易でないことから、予定利率の設定は他の基礎率と比較して特段の配慮が必要であり、アクチュアリーとして長期の予定利率は保守的なものを採用するのが一般的である。

近年における長期的な低金利下においては、従来以上に商品特性・運用方針・配当政策などと一体化した予定利率の設定が必要である。

「利率変動型」とすることも考えられる。 

一定期間ごとに予定利率が変動していき、変更時点の金融環境により予定利率が決定される予定利率変動型商品であれば、一定程度、金利リスクを抑えることができる。また、設定する予定利率を実勢金利に近い水準とすることもできるため、金利上昇時には販売上も有利に働きやすい。一般的には標準責任準備金の対象外であるため、予定利率と標準利率との差による標準責任準備金積立負担がなく収益上の不利益も発生しない。ただし、予定利率に最低保証があり、それが標準利率を超えている場合は標準責任準備金の対象となるため留意が必要である。

さらに、ALM型運用を前提として、解約返戻金を市場価格に連動させるMarket Value Adjustmentを導入した場合にも一定の対応は可能であろう。一方、すでに低解約返戻金型としている中で、更にMVAを導入することについて、契約者保護の観点より留意する必要があると考えられる。

また、利率変動型であっても、1契約の中で、それまでに支払ったオールドマネーの利回りが影響を与えることを考慮する必要がある。

金利が低迷している状況の中で、他の金融商品との競合が難しい場合には、代理店手数料や募集費用などの事業費支出を削減するとともに予定事業費を引き下げると言う判断もありうる。利率と比較して、事業費は保険会社のコントロールをしやすい側面があるため、それらを総合して実質的な利回りを引き上げると言う検討も場合によっては有効であろう。

また、年金開始後の利率も利率変動型とするのか、それとも年金額が受取るたびに変動するよりも固定する方が老後の生活資金として安定するためニーズがたかいとも考えることができる。一方で現時点において年金開始時の予定利率を保証することは、保険会社としてはリスクが高くなるため、保守的に考える必要があるだろう。更に、年金開始後は基本的にキャッシュアウトが中心となることにも留意する必要がある。

そこで、年金開始後は予定利率を固定するのであれば、年金開始時にその利率を決定し、実際の年金額を確定する仕組みの商品とすることも考えられよう。あるいは、年金開始時に、利率変動型か予定利率固定型かを選択できるようにすることも考えられる。

ü  予定事業費

保険料比例の予定事業費体系の場合、保険料が安いことから実額としての予定事業費収入が減少するため、従来の商品よりも高めの設定とすることが考えられる。 

ü  予定脱退率  

本商品では、実際の解約率と予定脱退率の乖離による会社収支への影響が大きいことから、予定脱退率の設定に際しては慎重な検討を要する。そもそも、解約率には、死亡率や金利とは異なる次のような特性がある。

l  契約者からの一方的通知で足るので、事後的経営管理が困難

l  他のシナリオに連動していると考えられる

l  変動幅が、死亡率および金利の変動幅より大きい

l  商品特性に誘引される

l  一定方向への変動が、収益性・健全性を一定方向に変動されるとは限らない

本商品についていえば、契約者は商品特性を理解した上で加入しているため、従来の商品と比較すると、実際の解約率は低くなると見込まれる。実際の設定に際しては、実績解約率に影響を与えるファクター(性別・年齢・経過年数・商品特性等)をキーとして解約率のトレンド等を十分に分析し、販売ターゲットやマーケット等を考慮した上で慎重に設定する必要がある。

開発時収益検証   

ü  開発時の収益検証についても、慎重に行う必要がある。解約率を導入している商品においては、実績解約率が予定よりも高い場合、解約益は生じるものの、将来の費差益・死差益は想定よりも減少する。逆に、実績解約率が予定よりも低い場合、解約損が生じるものの継続率の向上により将来の費差益・死差益は増加する。よって、解約率について上ブレ・下ブレなど様々なシナリオでの収益検証を実施し、解約率の変動が会社収支に与える影響を確認しておく必要がある。実際には、上記の予定脱退率算定に際して、収益検証を実施しながら、解約率の変動が会社収支へ与える影響を最小限に抑えられるような水準に設定することが望ましい。

同時に、契約者保護の観点からは、当然のことながら解約の増加により費差・死差を含めたトータルの収益が増加するような解約率の設定は、会社として解約を助長するような政策を採る懸念があるため好ましくないという視点も考慮しておくべきである。

なお、収益検証の際のシナリオ設定において、死亡率・事業費・金利の前提については、上記で描く基礎率について挙げたような視点を反映するべきであろう。

解約率に備えた内部留保   

ü  本商品は、解約率の変動が、収支に与える影響や変動する危険も大きいと思われるため、実際に損失が発生した場合に備えて、十分な内部留保を確保しておくべきである。

積立方法としては、解約返戻金を給付ととらえ、解約を保険事故と解釈して、解約率変動を保険リスクとみなして、危険準備金として積み立てるという考え方や、一般的なリスクとして内部留保全体で対応する考え方がある。いずれにしても、その影響の大きさから対応すべき額も決して小さくはならないことが懸念される。

販売チャネル

ü  本商品は、できる限り年金額を大きくすることで顧客ニーズを満たす考えかたより、事業費の抑制をとくに求められることが考えられる。そこで、販売チャネルの違いに基づくコスト差を考慮して、販売チャネルを限定することも考えられる。

近年のIT技術の急速な発展により、「インターネット」による新たな低コストの情報インフラが整備されてきている。インターネット販売の場合、募集手当、事務コスト等が軽減されると考えられる一方で、十分な危険選択が行えないため逆選択のリスクが高いと考えられるが、本商品は死亡給付金額を低く抑えようとする観点より、逆選択のリスクは低いと考えられる。  

ただし、低解約返戻金型であること、死亡給付金額をそもそも低く抑えようとすること、これらが契約者保護の観点より、契約者への十分な情報開示と説明が必要となる場合の考慮が必要となるであろう。

また、「保険会社向けの総合的な監督指針」に記載のトンチン性の高い商品については、保険会社が顧客に対して、その商品特性について十分説明を行うための体制が整備されているか、この点を留意しておく必要もある。

モニタリング  

ü  将来の不確実性に備えるため、発生率の変動要因について、定期的にモニタリングすると共に、その要因を分析・検証するシステム整備が必要であると考える。

本商品では、実績解約率が予定脱退率と乖離した場合の収支への影響が大きいため、販売後は解約率について定期的にモニタリングを行い、悪化している場合には、販売方針の変更、商品内容や保険料率の改定、売り止め等を検討する必要がある。

また、実績解約率以外にも、「事業費モニタリング」を通じて、付加保険料の十分性も注視する必要がある。 

ü  究極的には契約者保護と会社収支安定は両立すべき観点である。損失に備えた内部留保を確保するとともに、販売実績・解約実績のモニタリングを継続し、定期的に商品・料率を見直す社内的仕組みを設けることが望ましい。

社会保障制度との関係、隣接業界との競合について  

ü  社会保障制度とうまく整合性のとれた、補完関係のある商品設計を行うことで、冗長となる保障はできる限り少なくすることを考慮して、顧客ニーズを満たしていくことが必要になるであろう。 

ü  医療保障及び年金が生保経営の主役となり、死亡保障が脇役となっていくのは、いわば、時のながれであり、従って、他業界と共通の土俵で勝負しなければならないものが主役となるからには、経営環境は益々厳しいもとのなることが必定であり、より一層の効率経営が要求されてこよう。

以上です。

2010年10月16日 (土)

『モチベーション3.0』 ダニエル・ピンク著   を読んで

同じ世代の著者であるが、よくできていると思った。おもしろかった。

モチベーション3.0になれていない自分、それを今の社会が2.0だからと言っても始まらないし、その中でも3.0になれるようにしていきたいと思ったupwardright

また簡単ではあるが整理しておく。

モチベーション1.0 生存を目的とする人類最初のOS(基本ソフト)

モチベーション2.0 アメとムチ、信賞必罰に基づく、与えられた動機づけによるOS。ルーチンワーク中心の時代には有効だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥る。

モチベーション3.0 自分の内面から湧き出る「やる気!(Drive)」に基づくOS。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気!」の基本形。

≪モチベーション2.0の盛衰≫

第一に、新たなビジネスモデルの多くが、現在の事業形態とは一致していない。なぜなら今日、わたしたちは外発的に動機づけられた利益を最大化しようとしているだけではない。内発的に動機づけられた目的も最大化使用としているからだ。次に、モチベーション2.0は、21世紀の経済学が考える人間の行動(行動経済学)と一致しない。私たちは、損得しか眼中にない経済ロボットではなく、成熟した一人前の大人だと、経済学者がようやく理解しつつあるからだ。最後に、おそらくもっとも重要な点は、モチベーション2.0は現代の仕事の大半と相容れない、ということだ。厳格に型にはまり、他人から指示される一方の退屈な仕事ではなく、クリエイティブで興趣に富み、自主性を発揮できる仕事に就く人が著しく増えているためだ。

もちろん、職場のモチベーションに関する議論は、人生における避けがたい純然たる現実、つまり生計を立てなくてはいけないという基礎事実から始まる。給与、契約料、給付金、何がしかの特典などは、「基本的な報酬ライン」だ。これが適切でなく、公平でなければ、被雇用者は、不公平さや不安定な状況ばかり意識する。それでは、本来予測可能なはずの外的動機づけも、理解し難い奇妙な内発的動機づけもうまれない。結局、食うために生きている、というレベルでは、モチベーションは全く上がらない。

だが、ひとたびこの基本的な報酬ラインが満たされてくると、アメとムチは、意図した目的とは正反対の効果を生み出す場合が多い。モチベーションを上げるはずのメカニズムが、モチベーションを下げるようになる。創造性を豊かにするための策略は、創造性を失わせる。好ましい言動を促すはずのプログラムは、かえって消滅させる。同時に、アメとムチは、ネガティブな行動を抑制するどころか、往々にしてそれを助長する。不正行為を促し、依存症やひどく短絡的な思考を生み出すのだ。

この段階では、「報酬」は行動に対して奇妙な作用を及ぼすのだ。興味深い仕事を、決まりきった退屈な仕事に変えてしまう。遊びを仕事に変えてしまう場合もある。よって、報酬により内発的動機づけが下がると、成果や創造性や、高潔なふるまいでさえも、ドミノ倒しのようになる恐れがある。これを「ソーヤ効果(ソーヤ効果の定義には、二面性がある。遊びを仕事に変える場合もあれば、仕事を遊びに帰る場合もある」と呼ぶことにしよう。

また、広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途を見つけられたかもしれないのに、報酬により焦点が絞られたせいで功を焦ってそれができなくなることがある。

 

 また、公平な報酬であり、基本的な報酬ラインを満たして、そこに他社よりも少し多めの給与の場合に、有能な人材が集まり、離職率が低下し、生産性と社員の士気が高まることが分かっている。金銭問題を視界から消す鮮やかな方法である。

≪モチベーション2.0=アメとムチの致命的な7つの欠陥≫

1.      内発的動機づけを失わせる

2.      かえって成果が上がらなくなる

3.      創造性を蝕む

4.      好ましい言動への意欲を失わせる。(思いやりを失わせる)

5.      ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する

6.      依存性がある

7.      短絡的思考(短期思考)を助長する

人間は本来「自律性を発揮し、自己決定し、お互いにつながりたいという欲求」を備えている。その欲求が解き放たれたとき、人は多くを達成し、いっそう豊かな人生を送ることができる、というものだ。

モチベーション2.0OSは、タイプXextrinsic、外発的)と呼び、モチベーション3.0OSは、タイプiintrinsic、内発的)と呼ぶ。また、Xはダグラス・マクレガーのX理論に敬意を表して命名している。

タイプiにとって主な動機づけは、活動における自主性、やりがい、目的である。

タイプiの特徴は生まれながら備わっているのではなく、後天的に作ることができる。

タイプiは長期的には、ほとんどの場合タイプXをしのぐ成果を上げる。

タイプiは、金銭や他者からの評価を軽視しているわけではない。

タイプiの行動は、再生可能な資源である。

タイプiの行動は、肉体的にも精神的にも、大いに満足できる状態をもたらす。

タイプiの行動は根本的に、「自律性」、「マスタリー」、「目的」という三つの要素をよりどころとしている。自らの意思で行動を決める。意義あることの熟達を目指して、打ち込む。さらなる高みへの追求を、大きな目的へと結びつける。

≪自律性(オートノミー≫

自由に好きなように仕事をする

自律性とは、選択をして行動することを意味する。つまり、他者からの制約を受けずに行動できるし、他社と円満に相互依存もできる。

「権限委譲」という概念を少し検討してみる。これは、組織に権力があって、ご親切にもその一部を、ありがたく待ち受けている従業員に分け与えてあげる、という考え方だ。だが、これは自律ではない。

タイプiの行動は、4つのT、課題(Task)、時間(Time)、手法(Technique)、チーム(Team)に関して自律性を得た時に現れる。

モチベーション2.0は、自由を与えれば人間は怠ける。だから、自律的にやらせれば責任回避をするだろう、という仮説を設定している。

モチベーション3.0は、人は、本来責任を果たすことを望んでいる。つまり、課題や時間、方法、チームを確実に任せることが、目的にいたる早道だと考える。

私たちは生来、タイプiなのである。ところが、外部の圧力(人は管理される必要があるという、他ならぬその観念も含めて)が私たちに備わっている初期設定を変更して、タイプXへ変えようとする。もし、職場だけではなく、学校や家庭も含めて自分の環境をアップデートすれば、もしリーダーが人間の本質について真実と、それを裏付ける科学の成果を認めれば、私たち自身も同僚も、人間本来の状態を取り戻せるに違いない。

≪マスタリー(熟達)≫

 チクセントミハイは、人生で最高の、最も満足できる経験とは、「フローの状態」のときだった。フローの状態では、目標がはっきりとしている。山頂への到達や、ネットの向こう側にボールを打つことや、粘土を思うように形作ることなのだ。そのフィードバックはすぐに返ってくる。山頂は次第に近づくか遠ざかる。ボールはコートの内側に入るかコートの外に出る。ロクロを回して作る陶芸品は、滑らかに仕上がるか形が崩れる。

 最も重要なのは、フローにおいては、やらなくてはならないことと、できることの相関性がぴったりと一致する点だ。課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも1、2段高く、努力という行為そのものが無ければ、とても到達できないレベルのことをほぼ無意識のうちにやっている。これが心身を成長させる。このバランスが月並みな体験とは全く異なるレベルの集中と満足感を生み出す。「その仕事に没頭している」、フロー体験で人は自律的である。

 フロー体験はマスタリーに必要不可欠である。深くて長い時間を要するマスタリーを求める過程で、フローはどのように役立つのだろうか?

 マスタリーはマインドセット(心の持ち方次第)である

 マスタリーは苦痛でもある。

「面白みのない退屈な部分でさえ楽しめる仕事を選択すること。そうすればいつも満足感をえられる」

「努力とは、人生に意味を与える諸々の事柄の一つである。努力をするということは、その対象となるものに意味があるとあなたが見なすことである。それが重要だからこそ、人はいとわずに努力するのだ。もし何にも価値を見出さなかったり、価値あるものに向けて熱心に努力しないようであれば、あなたの人生は不毛となるだろう」

マスタリーは漸近線だ。近づくことはできるが到達することはできない。マスタリーはどうしても得られないからこそ、達人にとっては魅力的なのである。

≪魂にとっての酸素≫

 次に挙げる6つの症状のうちどれか3つがあてはまれば、人は深刻な状況に陥るおそれがある。フロー状態が得られない場合にもなる。

1.      情動不安・神経過敏

2.      疲れやすい

3.      集中力の欠如または空虚感

4.      いらいら

5.      こり(筋肉の緊張)

6.      睡眠障害

≪目的≫

 モチベーション2.0は、利益の最大化を中心にしていた。モチベーション3.0は利益を否定しないが、「目的の最大化」を同じくらい重要視する。この目的という新しい動機(ドライブ)の兆候を目標、言葉、指針という組織における三つの領域で見てとることができる。

 人間は本来、活発に積極的に活動するようにできている。人生で最も豊かな体験は、他人からの承認を声高に求めている時ではない。自分の内なる声に耳を傾けて、意義あることに取り組んでいるとき、それに没頭(フロー)しているとき、大きな目的のためその活動に従事しているときだ、と私たちは知っている。これは人間性の肯定でもあるのだ。

≪タイプi用ツールキット≫

 マスタリーへ近づく5つのステップ

1.      意図的な訓練には、実力を上げるという一つの目的しかない。意図的な訓練とは、遂行能力を上げて、新たな目標を定め、毎回少しでも向上するように全力を注ぐことである。

2.      とにかく反復する

3.      批判的なフィードバックを絶えず求める

4.      改善すべき点は厳しく焦点をあわせる

5.      訓練の仮定の精神的、肉体的疲労を覚悟する

以上

それにしてもモチベーション2.0の会社がまだまだ多いように思う。その中で自律的な行動をすることは、自分自身においては難しいと痛感をしている。

2010年10月11日 (月)

論文対策

Webの「保険関係法規集」を手がけられている、s_iwkさんに添削をいただきました。ありがとうございました。

よい情報は広く共有をさせていただき、より多く役立てればと考えていますので、公開を致します。

【問題】(H19改題)

個人保険の営業保険料設定について、市場金利の「低迷」が見込まれる状況で、貯蓄性商品について一時払及び平準払の各払方における予定利率の設定について所見を述べよ。ただし、金利変化を見据えた商品性のあり方についても言及すること

○営業保険料決定の際に考慮すべき点

ü  十分性

ü  公平性

ü  収益性

ü  標準責任準備金制度との関係

○予定利率の設定について基本的な考え方

 保険料計算に用いる予定利率の決定については、自社の運用利回りや新規投資の運用利回りなどをもとに、自社の将来の運用方針の変更の有無と将来の利回り予想などに基づき決定するのがその基本的考え方である。今後の運用方針を考える上では、該当する保険契約の解約等によるキャッシュアウトなど、「キャッシュフローの特性」も考慮する必要がある。

 死亡率や事業費支出などと異なり、運用利回りはリスク分散やコントロールが難しく、将来的な予測も容易でないことから、予定利率の設定は他の基礎率と比較して特段の配慮が必要であり、アクチュアリーとして長期の予定利率は保守的なものを採用するのが一般的である。

 近年における長期的な低金利下においては、従来以上に商品特性・運用方針・配当政策などと一体化した予定利率の設定が必要である。

○一時払商品の留意点と所見

ü  運用商品としての色彩が濃く、死差益、費差益等といった運用関係以外の収益によるバッファーがほとんどない。

ü  解約等による資金流動性が高く、また、一般的に効果的な解約控除機能がない。

ü  金利感応度が高く、市場金利の動向によっては解約増を招きやすい。

ü  他社商品、隣接業界の運用商品との競合

他社や他業態との競争力を維持するには、機動的に予定利率を変更できる仕組み、区分経理して配当することや、予定利率変動型といった商品とすること等が考えられる。また、投資対象を国債のみならず社債や外国証券等による運用を前提として、これらを運用指標に含めることにより、予定利率を高く設定することも考えられる。

ü  運用方針および配当政策との関係。(総合的なバランス型運用の場合は保守的な予定利率とし、実績還元型の配当が考えられ、ALM型運用の場合は期待される運用利率に近い予定利率を設定できる。)

ü  当初の標準責任準備金積立負担が重いため、十分性・収益性に留意が必要

契約時における保険期間と同期間の国債があり、その利回りをベースに契約時の金利を設定することが考えられる。

解約発生時に金利上昇していると売却損が発生する懸念はあるが、ALM型運用を前提として、解約控除(MVA)を設定すれば、一定の対応は可能になろう

しかし、MVAの無制限な設定は顧客の理解を得られないであろう点も考慮する必要があろう。

次に、資産運用において金利上昇リスクをヘッジする、例えば債券にプットオプションをつける等方法がある。ヘッジすることにより、オプションコストがかかるので、その分を差し引いた利回りをベースに保守的な予定利率設定を考えることも可能と考えられる。

しかし、金利上昇に契約が100%解約されるとは考えられないこともある。

解約水準の金利感応度を考慮してヘッジ割合を推定することも考える必要があろう。

○平準払商品の留意点と所見

 平準払については、毎年ニューマネーが入ってくるという点で、一時払とは状況が異なる。過去に締結した契約の保険料が毎年新規に入ってくるわけであり、現在の金利との差が逆ざやの要因になり得る。平準払の場合は将来の金利低下リスクがあるため、長期にわたる予定利率の設定には慎重な配慮が必要である。

 他に、以下のような点に留意する必要があると考えられる。

ü  平準払の場合は、一時払よりも死差、費差等他の利源が厚いため、これらのバッファーによりある程度金利リスクをカバーできる。

ü  標準利率との関係。(予定利率が標準利率を上回っている場合、保険期間が超長期の場合には積増負担が大きい。)

ü  払済保険への変更等、契約者に与えられたオプションとその特性など。

 ニューマネーが入るため、短期的な状況のみで予定利率を設定することは危険であり、金利上昇が見込まれる状況であっても保守的な設定が必要である。低金利下においては、商品としての魅力を削ぐことにもなるため、その問題をカバーする手段としては、例えば「有配当にする」「利率変動型にする」といった検討も必要であろう。

解約の権利を契約者が持っているため、つねに生命保険会社の運用にとって不利な状況にキャッシュフローが動くことも考えられる。このような金利リスクに対する有効なヘッジとして「スワップションの買い」が考えうる。但し、資産運用によって、ヘッジを考える場合には、負債に対応する期間のヘッジ手段が入手可能か、ヘッジ手段を供給する市場の大きさ・流動性が十分かを検証する必要がある。また、100%の解約等は考えづらいため、どの程度までヘッジをするか考慮する必要もある。予定利率は市中金利から「スワップション購入コスト」を差し引いた水準を基準に考える必要がある。

負債はその長期性から完全なヘッジはきわめて困難(あるいは不可能)と一般的に考えられていることを踏まえておく必要があろう。

○貯蓄性商品の予定利率

(1)      標準利率との関係

一般的に営業保険料の予定利率は標準と必ずしも合わせる必要はないが、異なる場合には以下の通り留意する必要がある。

(ア)  予定利率<標準利率の場合

一般的に他の保険料計算基礎率が標準責任準備金計算基礎率と同じ場合は、保険料計算基礎率による契約者価額が標準責任準備金を上回るため契約者価額が標準責任準備金となり積増負担等による問題は生じ得ないので、予定利率に十分性が確保されていれば大きな負担は発生し得ない。

(イ)  予定利率>標準利率の場合

一般に標準責任準備金積増負担が生じる。一時払商品においては契約初期に大きな積立負担となる。積増負担をその保険群団で賄えない場合は他の保険群団の剰余または会社勘定で立て替えることになるが、標準責任準備金を積み立てるために恒常的に立替が必要な状況は好ましくないと言える。金利上昇が見込まれる状況であっても、標準利率はすぐには上昇しないため、予定利率>標準利率となる予定利率を設定する場合は、将来収支分析等により十分な検証が必要である。

(2)      配当方式との関係について

有配当契約は、運用が予定利率を上回った場合、配当による還元があり、下回った場合は予定利率を最低保証している。これは保険会社が契約者に対し、コールオプションを提供していることを意味する。保険会社はこのオプションのプレミアム相当分を考慮する必要があり、金利リスクの面から予定利率は低めに設定することが望まれる。

 現在各社で販売している有配当保険は、5年毎利差配当保険のように予定利率を高く設定する替わり配当還元時期が後倒しとなるタイプが流通しているが、金利上昇時において競合他社との利回り競争の中、還元の遅れは競合上不利に働くため、早期還元するタイプの保険も検討する必要がある。

 無配当契約であれば、このようなリスクはないが、有配当契約よりも高い予定利率でなければ競争力が劣る商品となる。

○金利変化を見据えた商品性のあり方

ü  資産運用と商品性について

とくに貯蓄性商品については、他の金融商品とも競合するため、他業態の商品への乗換えも考えられる。このような観点から、予定利率が相対的に低い契約の解約率は上昇すると考えられ、仮に資産と負債のデュレーションがマッチしていたとしても解約による損失が発生する。このリスクに対処するには、オプション等によるヘッジや解約控除等の商品性による対応などが考えられる。

また、将来の運用環境を明確に予測することは不可能であるし、生命保険会社の健全性・安全性と契約者からみた収益性とのバランスが求められるなど、予定利率の設定はアクチュアリーにとって困難な課題の一つである。他の基礎率を含めた保険料水準の観点や、商品性の改善や資産運用方針の見直しなど経営政策全般にまたがる観点から議論を行うことも求められるだろう。

 したがって、商品性の面からの対応の一例としては以下のような「利率変動型商品」とすることが考えられる。

ü  利率変動型商品

一定期間ごとに予定利率が変動していき、変更時点の金融環境により予定利率が決定される予定利率変動型商品であれば、一時払、平準払とも、金利リスクを抑えることができる。また、設定する予定利率を実勢金利に近い水準とすることもできるため、金利上昇時には販売上も有利に働きやすい。一般的には標準責任準備金の対象外であるため、予定利率と標準利率との差による標準責任準備金積立負担がなく収益上の不利益も発生しない。ただし、予定利率に最低保証があり、それが標準利率を超えている場合は標準責任準備金の対象となるため留意が必要である。

 さらに、解約返戻金を市場価格に連動させるMarket Value Adjustmentを導入した場合は金利変動リスクをほとんど抑えることができ、貯蓄性商品としては保険会社にとって望ましい商品と考えられる。

ただし、利率変動型であっても、1契約の中で、それまでに支払ったオールドマネーの利回りが影響を与えることを考慮する必要がある。

金利が低迷している状況の中で、他の金融商品との競合が難しい場合には、代理店手数料や募集費用などの事業費支出を削減するとともに予定事業費を引き下げると言う判断もありうる。利率と比較して、事業費は保険会社のコントロールをしやすい側面があるため、それらを総合して実質的な利回りを引き上げると言う検討も場合によっては有効であろう。さらに、低解約返戻型の商品を導入することでも、顧客ニーズにこたえていく方法も考えられる。

○収益検証

 予定利率を再設定する際には収益検証を行い、運用利回り等のシナリオを変動させ収益性の把握を行うとともに、リスク許容度との関連についても把握する必要がある。

 また、販売後のモニタリングも重要で、金利が低下傾向に転化し損失が発生した場合に、予定利率の改定ルールや販売抑制・停止等の対応を行うべく社内体制を構築しておくことも肝要である。

自主的に区分経理の資産区分と商品区分を分離することにより、他の保険の収支に営業を与えない態勢をとるべきである。


追加いただいたコメントとして。

一般に、「○○をすれば対応できる」と断定できるようなことはそもそも問題になりようがないので論述として出題されないと思います。したがって、対応可能でない残課題は何か、ということを意識する必要があります。

生保1の問題なので、商品性や基礎率設定にどのように反映するか、という点への言及があるほうが望ましいでしょう。

負債はその長期性から完全なヘッジはきわめて困難(あるいは不可能)と一般的に考えられている、と理解いただいたほうがいいと思います。その意味でリスクをなくすことができる、と断じるのは、採点者に「ちゃんと分かっていないのではないか」という疑念を抱かせるおそれがあると思います。

2010年10月 3日 (日)

「経営戦略を問いなおす」 著者 三品和広  を読んで

腑に落ちなかった所もありましたが、とても読みやすい内容でした。

では、どこが腑に落ちなかったのか?二箇所ありました。

その一、戦後40年の不毛な「成長戦略」による売上高営業利益率の下降を示されました。高度経済成長時代に薄利多売となり売上高営業利益率が下降するのは必然のような気がしており、「失われた40年」と言われますが、そこまでには思えなかったこと。

もちろん、規模・成長を目的とする事が愚であることは理解します。

その二、戦略は観(事業観、人間観、世界観、歴史観)と経験と度胸!戦略は、主観に基づく特殊解!

そもそも戦略は分析的(アナリシス)ではなく統合的(シンセシス)なので、結局は人間に宿る。ゆえに、下手な戦略ビジョンより「経営幹部の人選により戦略を造る」ことが肝心であるということを、事例を用いて示している。さらに、戦略を造る人を選ぶには過去の実績やパーソナリティ(性格,人柄)より、テンパラメント(観、気質、感受性)を重視すべきという提言を行っている。

実績で経営者を選ぶとロクなことになりません。実績のある人がみんな駄目というわけではありませんが、実績があっても、経営者としては駄目という「管理の達人」はいくらでもいます。逆にこれという実績が無くても、経営者としては秀逸という人もたくさんいます。実務は知識でするものです。経営は、知識でするものではありません。知識の本質は過去の経験にありますが、経営は本質的に不確定な未来に向かって作用するものなのです。そこで求められる大局的な判断に、広い教養は役立つとしても、実務の知識は必ずしも必要ないでしょう。

見えない未来に向かって、時代の趨勢を読み、世界の動向を捉え、技術と市場の進化を予見し、大きな投資判断をするとなると、求められるのは専門知識の深さではありません。実務能力の確かさでもありません。視野の広さこと、モノを言うのです。まさに歴史観、世界観、そして人間観が問われます。

結果(業績)につながる本当の原因は、営為の背後に控える「事業観」にあるのではないかという見方が浮かんできたのです。そこで、戦略を直接説くよりも、事業観を鍛えるに限ります。実践的戦略論の全体像です。

人事施策が重要になることは理解できるのですが、今のままでは、生え抜きの経営者が育たないと言われているように思えたからです。例えば、少し古いですが、第一生命の石原泰三氏はサラリーマン社長ですが、素晴らしい経営者であると思います。

ここからは、なるほどと思える所です。

戦略の目的は長期利益の最大化にある。

変わり難い長期利益、それを10年単位でいかにシフトアップさせていくか。それが本当の戦略である。

いつでも誰でも、思い立った時に立てられるようなものは戦略ではありません。そういうものは、短期の戦術です。戦術と戦略はきちんと区別する必要があります。

ビジョンと戦略。ビジョン自体は、経営者が替わっても残ります。

経営戦略の核心として、「立地(ポジショニング)」、「構え(タテ、ヨコ、オクユキ)」、「均整(パッケージング)」を挙げられています。

企業の命運を分ける戦略、それは「立地替え」です。荒廃の進んだ旧天地を捨て、新天地に打って出る。これを如何に実現するかという話です。「立地替え」は掛値なしの難業であり、時間もかかります。であるがゆえに、戦略の核心となるのです。

個人で言うところの、「転職」に似ていると思いました。

「構え」:「垂直統合」とは、企業が川上または川下に活動の範囲を拡げ、付加価値を内部に取り込む動きを指しています。次に「シナジー」、多角化の程度とその構成です。ペンタゴン経営を標榜して失敗したカネボウ、一方で、関連多角化で成功しているキャノンのカメラと事務機器がある。ここでは、難業に挑まないと、非凡な結果は生まれないでしょう。いくら今いる世界が地盤沈下を起こしていても、そこが知り尽くした明るみである以上、人はなかなか暗闇(無知の世界)へ足を踏み入れようとはしない。それはいずれジリ貧を招くことになる。次に「地域展開」、事業の地理的な展開、海外に出るのかなど。

「均整」:戦略の最終的な有効性は、ボトルネックで決まります。いくら優れた立地を選んでも、いくら秀でた構えをつくっても、他にシビアなボトルネックが存在すれば全ては台無しです。その意味で、戦略の要諦はラインバランス、すなわち「均整」にあると心得るべきでしょう。

「ストーリーとしての競争戦略」でも出てきましたが、この本でもサウスウエスト航空の事例がありました。ここでは、サウスウエスト航空の「顧客満足は社員満足から」という発想と実践を確立したユニークな人事施策がありました。また、ミッションは「温かい心と親しみと、一人一人のプライドとサウスウエスト精神をこめて、最高水準の顧客サービスを実現すること」とされています。経営理念は、なんと「愛」という会社です。まるで、直江兼続のようです!?

山の頂から全貌を見渡せるのは、実務を持たない経営者に限られます。その経営者が、山の中腹で(実務で)四苦八苦している部課長に向かって「お~い、(戦略を)頼むぞ~」では、いくらなんでも話にならないでしょう。経営者は、一見したところ何のつながりもない幾多の案件に判断を下していきますが、判断自体には何らかの傾向、またはバイアスがついて回ります。その傾向が、事後的に一つのパターンとして浮かび上がり、立地、構え、均整、すなわち戦略を形作るのです。

指示待ち人間はダメだと諭す経営者や部課長をよく見かけますが、指示待ち人間は、会社にやってくるのではありません。経営陣や上司が指示待ち人間を大量生産するのです。

なるほどと思いました。

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