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2010年10月11日 (月)

論文対策

Webの「保険関係法規集」を手がけられている、s_iwkさんに添削をいただきました。ありがとうございました。

よい情報は広く共有をさせていただき、より多く役立てればと考えていますので、公開を致します。

【問題】(H19改題)

個人保険の営業保険料設定について、市場金利の「低迷」が見込まれる状況で、貯蓄性商品について一時払及び平準払の各払方における予定利率の設定について所見を述べよ。ただし、金利変化を見据えた商品性のあり方についても言及すること

○営業保険料決定の際に考慮すべき点

ü  十分性

ü  公平性

ü  収益性

ü  標準責任準備金制度との関係

○予定利率の設定について基本的な考え方

 保険料計算に用いる予定利率の決定については、自社の運用利回りや新規投資の運用利回りなどをもとに、自社の将来の運用方針の変更の有無と将来の利回り予想などに基づき決定するのがその基本的考え方である。今後の運用方針を考える上では、該当する保険契約の解約等によるキャッシュアウトなど、「キャッシュフローの特性」も考慮する必要がある。

 死亡率や事業費支出などと異なり、運用利回りはリスク分散やコントロールが難しく、将来的な予測も容易でないことから、予定利率の設定は他の基礎率と比較して特段の配慮が必要であり、アクチュアリーとして長期の予定利率は保守的なものを採用するのが一般的である。

 近年における長期的な低金利下においては、従来以上に商品特性・運用方針・配当政策などと一体化した予定利率の設定が必要である。

○一時払商品の留意点と所見

ü  運用商品としての色彩が濃く、死差益、費差益等といった運用関係以外の収益によるバッファーがほとんどない。

ü  解約等による資金流動性が高く、また、一般的に効果的な解約控除機能がない。

ü  金利感応度が高く、市場金利の動向によっては解約増を招きやすい。

ü  他社商品、隣接業界の運用商品との競合

他社や他業態との競争力を維持するには、機動的に予定利率を変更できる仕組み、区分経理して配当することや、予定利率変動型といった商品とすること等が考えられる。また、投資対象を国債のみならず社債や外国証券等による運用を前提として、これらを運用指標に含めることにより、予定利率を高く設定することも考えられる。

ü  運用方針および配当政策との関係。(総合的なバランス型運用の場合は保守的な予定利率とし、実績還元型の配当が考えられ、ALM型運用の場合は期待される運用利率に近い予定利率を設定できる。)

ü  当初の標準責任準備金積立負担が重いため、十分性・収益性に留意が必要

契約時における保険期間と同期間の国債があり、その利回りをベースに契約時の金利を設定することが考えられる。

解約発生時に金利上昇していると売却損が発生する懸念はあるが、ALM型運用を前提として、解約控除(MVA)を設定すれば、一定の対応は可能になろう

しかし、MVAの無制限な設定は顧客の理解を得られないであろう点も考慮する必要があろう。

次に、資産運用において金利上昇リスクをヘッジする、例えば債券にプットオプションをつける等方法がある。ヘッジすることにより、オプションコストがかかるので、その分を差し引いた利回りをベースに保守的な予定利率設定を考えることも可能と考えられる。

しかし、金利上昇に契約が100%解約されるとは考えられないこともある。

解約水準の金利感応度を考慮してヘッジ割合を推定することも考える必要があろう。

○平準払商品の留意点と所見

 平準払については、毎年ニューマネーが入ってくるという点で、一時払とは状況が異なる。過去に締結した契約の保険料が毎年新規に入ってくるわけであり、現在の金利との差が逆ざやの要因になり得る。平準払の場合は将来の金利低下リスクがあるため、長期にわたる予定利率の設定には慎重な配慮が必要である。

 他に、以下のような点に留意する必要があると考えられる。

ü  平準払の場合は、一時払よりも死差、費差等他の利源が厚いため、これらのバッファーによりある程度金利リスクをカバーできる。

ü  標準利率との関係。(予定利率が標準利率を上回っている場合、保険期間が超長期の場合には積増負担が大きい。)

ü  払済保険への変更等、契約者に与えられたオプションとその特性など。

 ニューマネーが入るため、短期的な状況のみで予定利率を設定することは危険であり、金利上昇が見込まれる状況であっても保守的な設定が必要である。低金利下においては、商品としての魅力を削ぐことにもなるため、その問題をカバーする手段としては、例えば「有配当にする」「利率変動型にする」といった検討も必要であろう。

解約の権利を契約者が持っているため、つねに生命保険会社の運用にとって不利な状況にキャッシュフローが動くことも考えられる。このような金利リスクに対する有効なヘッジとして「スワップションの買い」が考えうる。但し、資産運用によって、ヘッジを考える場合には、負債に対応する期間のヘッジ手段が入手可能か、ヘッジ手段を供給する市場の大きさ・流動性が十分かを検証する必要がある。また、100%の解約等は考えづらいため、どの程度までヘッジをするか考慮する必要もある。予定利率は市中金利から「スワップション購入コスト」を差し引いた水準を基準に考える必要がある。

負債はその長期性から完全なヘッジはきわめて困難(あるいは不可能)と一般的に考えられていることを踏まえておく必要があろう。

○貯蓄性商品の予定利率

(1)      標準利率との関係

一般的に営業保険料の予定利率は標準と必ずしも合わせる必要はないが、異なる場合には以下の通り留意する必要がある。

(ア)  予定利率<標準利率の場合

一般的に他の保険料計算基礎率が標準責任準備金計算基礎率と同じ場合は、保険料計算基礎率による契約者価額が標準責任準備金を上回るため契約者価額が標準責任準備金となり積増負担等による問題は生じ得ないので、予定利率に十分性が確保されていれば大きな負担は発生し得ない。

(イ)  予定利率>標準利率の場合

一般に標準責任準備金積増負担が生じる。一時払商品においては契約初期に大きな積立負担となる。積増負担をその保険群団で賄えない場合は他の保険群団の剰余または会社勘定で立て替えることになるが、標準責任準備金を積み立てるために恒常的に立替が必要な状況は好ましくないと言える。金利上昇が見込まれる状況であっても、標準利率はすぐには上昇しないため、予定利率>標準利率となる予定利率を設定する場合は、将来収支分析等により十分な検証が必要である。

(2)      配当方式との関係について

有配当契約は、運用が予定利率を上回った場合、配当による還元があり、下回った場合は予定利率を最低保証している。これは保険会社が契約者に対し、コールオプションを提供していることを意味する。保険会社はこのオプションのプレミアム相当分を考慮する必要があり、金利リスクの面から予定利率は低めに設定することが望まれる。

 現在各社で販売している有配当保険は、5年毎利差配当保険のように予定利率を高く設定する替わり配当還元時期が後倒しとなるタイプが流通しているが、金利上昇時において競合他社との利回り競争の中、還元の遅れは競合上不利に働くため、早期還元するタイプの保険も検討する必要がある。

 無配当契約であれば、このようなリスクはないが、有配当契約よりも高い予定利率でなければ競争力が劣る商品となる。

○金利変化を見据えた商品性のあり方

ü  資産運用と商品性について

とくに貯蓄性商品については、他の金融商品とも競合するため、他業態の商品への乗換えも考えられる。このような観点から、予定利率が相対的に低い契約の解約率は上昇すると考えられ、仮に資産と負債のデュレーションがマッチしていたとしても解約による損失が発生する。このリスクに対処するには、オプション等によるヘッジや解約控除等の商品性による対応などが考えられる。

また、将来の運用環境を明確に予測することは不可能であるし、生命保険会社の健全性・安全性と契約者からみた収益性とのバランスが求められるなど、予定利率の設定はアクチュアリーにとって困難な課題の一つである。他の基礎率を含めた保険料水準の観点や、商品性の改善や資産運用方針の見直しなど経営政策全般にまたがる観点から議論を行うことも求められるだろう。

 したがって、商品性の面からの対応の一例としては以下のような「利率変動型商品」とすることが考えられる。

ü  利率変動型商品

一定期間ごとに予定利率が変動していき、変更時点の金融環境により予定利率が決定される予定利率変動型商品であれば、一時払、平準払とも、金利リスクを抑えることができる。また、設定する予定利率を実勢金利に近い水準とすることもできるため、金利上昇時には販売上も有利に働きやすい。一般的には標準責任準備金の対象外であるため、予定利率と標準利率との差による標準責任準備金積立負担がなく収益上の不利益も発生しない。ただし、予定利率に最低保証があり、それが標準利率を超えている場合は標準責任準備金の対象となるため留意が必要である。

 さらに、解約返戻金を市場価格に連動させるMarket Value Adjustmentを導入した場合は金利変動リスクをほとんど抑えることができ、貯蓄性商品としては保険会社にとって望ましい商品と考えられる。

ただし、利率変動型であっても、1契約の中で、それまでに支払ったオールドマネーの利回りが影響を与えることを考慮する必要がある。

金利が低迷している状況の中で、他の金融商品との競合が難しい場合には、代理店手数料や募集費用などの事業費支出を削減するとともに予定事業費を引き下げると言う判断もありうる。利率と比較して、事業費は保険会社のコントロールをしやすい側面があるため、それらを総合して実質的な利回りを引き上げると言う検討も場合によっては有効であろう。さらに、低解約返戻型の商品を導入することでも、顧客ニーズにこたえていく方法も考えられる。

○収益検証

 予定利率を再設定する際には収益検証を行い、運用利回り等のシナリオを変動させ収益性の把握を行うとともに、リスク許容度との関連についても把握する必要がある。

 また、販売後のモニタリングも重要で、金利が低下傾向に転化し損失が発生した場合に、予定利率の改定ルールや販売抑制・停止等の対応を行うべく社内体制を構築しておくことも肝要である。

自主的に区分経理の資産区分と商品区分を分離することにより、他の保険の収支に営業を与えない態勢をとるべきである。


追加いただいたコメントとして。

一般に、「○○をすれば対応できる」と断定できるようなことはそもそも問題になりようがないので論述として出題されないと思います。したがって、対応可能でない残課題は何か、ということを意識する必要があります。

生保1の問題なので、商品性や基礎率設定にどのように反映するか、という点への言及があるほうが望ましいでしょう。

負債はその長期性から完全なヘッジはきわめて困難(あるいは不可能)と一般的に考えられている、と理解いただいたほうがいいと思います。その意味でリスクをなくすことができる、と断じるのは、採点者に「ちゃんと分かっていないのではないか」という疑念を抱かせるおそれがあると思います。

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