« 『モチベーション3.0』 ダニエル・ピンク著   を読んで | トップページ | 「事業継続基準」について »

2010年10月17日 (日)

生命保険の新商品開発-トンチン年金

以前、ライフネットの岩瀬さんが、トンチン年金の必要性をブログに書かれていた。そこで、「トンチン年金」の商品開発について、留意事項及び所見を述べよ、という問題を設定してみた。

・・・・・と言っても、所見は難しいのですが、まずは論点を整理して考えていきたい。

最初に「トンチン性」とは、「保険会社向けの総合的な監督指針」に次の記載がある。

規則第53 条の7 1 項に規定する(社内規則等のこと)措置に関し、トンチン性の高い商品については、保険会社が顧客に対して、その商品特性について十分説明を行うための体制が整備されているか。

「トンチン性」とは、死亡者の持分が生存者に移ることにより、生存者により多くの給付が与えられる割合のこと。

「トンチン状態」とは、「アクチュアリー試験テキスト」に次の記載がある。

保険期間中に、責任準備金額>死亡保険金(給付金)額、となる場合が出てくることがある。いわゆる「トンチン状態」である。

そこで、ここでは「トンチン年金」について、死亡給付金額を引き下げ、更に解約率も織り込んで解約返戻金額を引き下げて、生存時に受け取れる年金額重視型商品とする。

背景・商品ニーズ、商品開発の必要性について

ü  規制緩和、少子高齢化の進行に伴い、死亡保障マーケットは成熟期に達し、医療保険等含めた生存保障マーケットが成長する中で、保険商品の多様化、複雑化が進んでいる。

ü  長期化する景気及び経済の低迷より、長期化する低金利状態、その中で、高齢化する社会において、老後の資金を安全、確実、有利に確保する方法が必要となっている。

ü  医学の進歩により難病、重病に罹った患者の延命措置も著しい向上を遂げているが、その結果、患者やその家族は先進医療を受けるための医療費等の経済的負担の可能性が高まることとなった。また、高齢化に伴う介護等の費用も大きな負担となってきている。

この種のニーズは従来の死亡保険ではカバーし難いため、生きるためのコストを賄うことを目的として、そのニーズが高まってきた。

ü  低解約返戻金型商品は従来の商品よりも同じ保険料であれば年金受取額が高くなることから、契約時に「今後解約することはない」と判断できる契約者にとっては、一定程度のニーズがあると考えられる。特に、高齢者にとっては、契約の見直しを必要としないケースも多いと想定され、高齢化社会の進行によりニーズが高まってくると思われる。一方、保険会社にとっても、料率面での競争激化が進行している中で、既存型商品市場の飽和・縮小による収益減少の補完を期待できるかもしれない。

契約者保護の観点について

一般的に、消費者保護の観点の一つについて、消費者を、消費者の利益を著しく害する条項を含む契約から守るべき、という考え方がある。低解約返戻金型商品、死亡給付金額の抑制について考えれば、保険数理技術的には妥当な商品であったとしても、契約者から見て誤解しやすい・理解し難いということであれば、この観点から問題となりうる。よって、当該商品の販売に際しては、解約返戻金が従来の商品より低いことについて、契約者への十分な情報開示と説明が必要である。

また、生命保険の超長期性をふまえれば、契約加入時は今後解約しないと判断していたとしても、契約者の生活環境・ニーズの変化に伴い、生命保険契約を継続する意味がなくなる可能性があり、それを加入時の選択による自己責任に帰すことが社会的に容認されるかどうかは疑問の余地がある。そこで、このような事態が発生することをできるだけ限定するために、契約者保護を担保できるような商品設計上の工夫は必要になろう。 

予定基礎率について

ü  予定死亡率

会社の過去の経験値をベースとしながらも、生命保険業界の経験値、再保険会社からの情報を収集する。また、トンチン年金という商品特性を考慮する必要がある。

保険引受上のリスクの方向性は生存側(死亡率が改善する方向)にあるため、使用する予定死亡率は、生保標準生命表2007(死亡保険用)というよりも第三分野標準生命表2007に近いと考えることができよう。 

また、年金開始後用としては、生保標準生命表2007(年金開始後用)がベースになるであろう。

ü  予定利率

年金となるため、保険期間は一般に長期となり、責任準備金が大きくなるため、予定利率の影響は大きくなると考えられる。

保険料計算に用いる予定利率の決定については、自社の運用利回りや新規投資の運用利回りなどをもとに、自社の将来の運用方針の変更の有無と将来の利回り予想などに基づき決定するのがその基本的考え方である。今後の運用方針を考える上では、該当する保険契約の解約等によるキャッシュアウトなど、「キャッシュフローの特性」も考慮する必要がある。

死亡率や事業費支出などと異なり、運用利回りはリスク分散やコントロールが難しく、将来的な予測も容易でないことから、予定利率の設定は他の基礎率と比較して特段の配慮が必要であり、アクチュアリーとして長期の予定利率は保守的なものを採用するのが一般的である。

近年における長期的な低金利下においては、従来以上に商品特性・運用方針・配当政策などと一体化した予定利率の設定が必要である。

「利率変動型」とすることも考えられる。 

一定期間ごとに予定利率が変動していき、変更時点の金融環境により予定利率が決定される予定利率変動型商品であれば、一定程度、金利リスクを抑えることができる。また、設定する予定利率を実勢金利に近い水準とすることもできるため、金利上昇時には販売上も有利に働きやすい。一般的には標準責任準備金の対象外であるため、予定利率と標準利率との差による標準責任準備金積立負担がなく収益上の不利益も発生しない。ただし、予定利率に最低保証があり、それが標準利率を超えている場合は標準責任準備金の対象となるため留意が必要である。

さらに、ALM型運用を前提として、解約返戻金を市場価格に連動させるMarket Value Adjustmentを導入した場合にも一定の対応は可能であろう。一方、すでに低解約返戻金型としている中で、更にMVAを導入することについて、契約者保護の観点より留意する必要があると考えられる。

また、利率変動型であっても、1契約の中で、それまでに支払ったオールドマネーの利回りが影響を与えることを考慮する必要がある。

金利が低迷している状況の中で、他の金融商品との競合が難しい場合には、代理店手数料や募集費用などの事業費支出を削減するとともに予定事業費を引き下げると言う判断もありうる。利率と比較して、事業費は保険会社のコントロールをしやすい側面があるため、それらを総合して実質的な利回りを引き上げると言う検討も場合によっては有効であろう。

また、年金開始後の利率も利率変動型とするのか、それとも年金額が受取るたびに変動するよりも固定する方が老後の生活資金として安定するためニーズがたかいとも考えることができる。一方で現時点において年金開始時の予定利率を保証することは、保険会社としてはリスクが高くなるため、保守的に考える必要があるだろう。更に、年金開始後は基本的にキャッシュアウトが中心となることにも留意する必要がある。

そこで、年金開始後は予定利率を固定するのであれば、年金開始時にその利率を決定し、実際の年金額を確定する仕組みの商品とすることも考えられよう。あるいは、年金開始時に、利率変動型か予定利率固定型かを選択できるようにすることも考えられる。

ü  予定事業費

保険料比例の予定事業費体系の場合、保険料が安いことから実額としての予定事業費収入が減少するため、従来の商品よりも高めの設定とすることが考えられる。 

ü  予定脱退率  

本商品では、実際の解約率と予定脱退率の乖離による会社収支への影響が大きいことから、予定脱退率の設定に際しては慎重な検討を要する。そもそも、解約率には、死亡率や金利とは異なる次のような特性がある。

l  契約者からの一方的通知で足るので、事後的経営管理が困難

l  他のシナリオに連動していると考えられる

l  変動幅が、死亡率および金利の変動幅より大きい

l  商品特性に誘引される

l  一定方向への変動が、収益性・健全性を一定方向に変動されるとは限らない

本商品についていえば、契約者は商品特性を理解した上で加入しているため、従来の商品と比較すると、実際の解約率は低くなると見込まれる。実際の設定に際しては、実績解約率に影響を与えるファクター(性別・年齢・経過年数・商品特性等)をキーとして解約率のトレンド等を十分に分析し、販売ターゲットやマーケット等を考慮した上で慎重に設定する必要がある。

開発時収益検証   

ü  開発時の収益検証についても、慎重に行う必要がある。解約率を導入している商品においては、実績解約率が予定よりも高い場合、解約益は生じるものの、将来の費差益・死差益は想定よりも減少する。逆に、実績解約率が予定よりも低い場合、解約損が生じるものの継続率の向上により将来の費差益・死差益は増加する。よって、解約率について上ブレ・下ブレなど様々なシナリオでの収益検証を実施し、解約率の変動が会社収支に与える影響を確認しておく必要がある。実際には、上記の予定脱退率算定に際して、収益検証を実施しながら、解約率の変動が会社収支へ与える影響を最小限に抑えられるような水準に設定することが望ましい。

同時に、契約者保護の観点からは、当然のことながら解約の増加により費差・死差を含めたトータルの収益が増加するような解約率の設定は、会社として解約を助長するような政策を採る懸念があるため好ましくないという視点も考慮しておくべきである。

なお、収益検証の際のシナリオ設定において、死亡率・事業費・金利の前提については、上記で描く基礎率について挙げたような視点を反映するべきであろう。

解約率に備えた内部留保   

ü  本商品は、解約率の変動が、収支に与える影響や変動する危険も大きいと思われるため、実際に損失が発生した場合に備えて、十分な内部留保を確保しておくべきである。

積立方法としては、解約返戻金を給付ととらえ、解約を保険事故と解釈して、解約率変動を保険リスクとみなして、危険準備金として積み立てるという考え方や、一般的なリスクとして内部留保全体で対応する考え方がある。いずれにしても、その影響の大きさから対応すべき額も決して小さくはならないことが懸念される。

販売チャネル

ü  本商品は、できる限り年金額を大きくすることで顧客ニーズを満たす考えかたより、事業費の抑制をとくに求められることが考えられる。そこで、販売チャネルの違いに基づくコスト差を考慮して、販売チャネルを限定することも考えられる。

近年のIT技術の急速な発展により、「インターネット」による新たな低コストの情報インフラが整備されてきている。インターネット販売の場合、募集手当、事務コスト等が軽減されると考えられる一方で、十分な危険選択が行えないため逆選択のリスクが高いと考えられるが、本商品は死亡給付金額を低く抑えようとする観点より、逆選択のリスクは低いと考えられる。  

ただし、低解約返戻金型であること、死亡給付金額をそもそも低く抑えようとすること、これらが契約者保護の観点より、契約者への十分な情報開示と説明が必要となる場合の考慮が必要となるであろう。

また、「保険会社向けの総合的な監督指針」に記載のトンチン性の高い商品については、保険会社が顧客に対して、その商品特性について十分説明を行うための体制が整備されているか、この点を留意しておく必要もある。

モニタリング  

ü  将来の不確実性に備えるため、発生率の変動要因について、定期的にモニタリングすると共に、その要因を分析・検証するシステム整備が必要であると考える。

本商品では、実績解約率が予定脱退率と乖離した場合の収支への影響が大きいため、販売後は解約率について定期的にモニタリングを行い、悪化している場合には、販売方針の変更、商品内容や保険料率の改定、売り止め等を検討する必要がある。

また、実績解約率以外にも、「事業費モニタリング」を通じて、付加保険料の十分性も注視する必要がある。 

ü  究極的には契約者保護と会社収支安定は両立すべき観点である。損失に備えた内部留保を確保するとともに、販売実績・解約実績のモニタリングを継続し、定期的に商品・料率を見直す社内的仕組みを設けることが望ましい。

社会保障制度との関係、隣接業界との競合について  

ü  社会保障制度とうまく整合性のとれた、補完関係のある商品設計を行うことで、冗長となる保障はできる限り少なくすることを考慮して、顧客ニーズを満たしていくことが必要になるであろう。 

ü  医療保障及び年金が生保経営の主役となり、死亡保障が脇役となっていくのは、いわば、時のながれであり、従って、他業界と共通の土俵で勝負しなければならないものが主役となるからには、経営環境は益々厳しいもとのなることが必定であり、より一層の効率経営が要求されてこよう。

以上です。

« 『モチベーション3.0』 ダニエル・ピンク著   を読んで | トップページ | 「事業継続基準」について »

勉強・試験」カテゴリの記事

コメント

Good day!This was a really wonderful topic!
I come from roma, I was luck to find your topic in digg
Also I learn a lot in your website really thanks very much i will come again

Thank you for your comment.
I'm glad to meet through the web.
Come and see my Web log(Blog) anytime you like.

See you,

adler

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます。
ありがとうございます。

★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜
ありがとうございます。
★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜

保険会社勤務です。今朝の日経に出ていた広告でトンチン保険の記載があり検索しました。よくわかりました、ありがとうございました!

コメント、ありがとうございます!
少しでもお役に立つようであれば光栄です。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1331845/37278953

この記事へのトラックバック一覧です: 生命保険の新商品開発-トンチン年金:

« 『モチベーション3.0』 ダニエル・ピンク著   を読んで | トップページ | 「事業継続基準」について »

フォト
2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最近のトラックバック

ウェブページ

ライフネット生命

無料ブログはココログ

Twitter

  • twitter