「事業継続基準」について
「生命保険会社の保険計理人の実務基準」について、以下の問いに答えよ。
① 事業継続基準について、その確認方法を簡潔に説明せよ
② 事業継続基準未達となった場合、事業継続基準不足相当額を解消するために保険計理人が意見書に示すことができる経営政策の変更を5つ挙げよ。
③ 「事業継続基準」が創設された趣旨を踏まえ、生命保険会社経営におけるアクチュアリーの果たす役割について所見を述べよ。
なお、「事業継続困難の判断基準」及び「保険業の継続が困難となる蓋然性がある場合」についても触れること
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① H13-2(2)参照可能なため割愛 ② 「生命保険会社の保険計理人の実務基準」第31条(事業継続基準に関する意見書記載事項)に次の5つが規定されている。これらの経営政策の変更は、ただちに行われるものでなくてはならない。 (ア) 一部または全部の保険種類の配当率の引き下げ (イ) 実現可能と判断できる事業費の抑制 (ウ) 資産運用方針(ポートフォリオ)の見直し (エ) 一部または全部の保険種類の新契約募集の抑制 (オ) 今後締結する保険契約の営業保険料の引き上げ ③ <事業継続基準の創設の趣旨> 本収支分析(3号収支分析)は、1号収支分析と異なり、会社全体の資産、負債、資本について行う。目的は、将来収支分析を通じて事業継続に必要な十分な資産が確保されているかを確認し、将来にわたって会社が事業を継続できるか否かを判断するものである。仮に、経営状況が悪化した場合においても本収支分析を通じて、保険契約者に多大な損害を与える前に、早期に発見・対処を可能とすることで、早期警戒システムの強化が図られる。 また、ソルベンシー・マージン比率における静的検証だけでは限界があるとの見方がある中で、動的検証として本収支分析が位置づけられる。 これまでの実務基準は、責任準備金積立水準や配当水準の適正性についての確認であったが、この事業継続基準は基準を満たせない場合には業務停止へと繋がることから、この意見書を取締役会に提出する保険計理人や、その計算実務にあたるアクチュアリーの重要性がさらに大きくなったと言える。 なお、事業継続基準確認には、例えば次の要件が求められる。 ² 保険計理人の独立性 ² 測定の客観性、公平性 <アクチュアリーの果たす役割としてのポイント> (1) 社内への報告 3号収支分析を通じ、事業継続に懸念(純資産に不足が生じる懸念)がある場合には、その状況について経営者をはじめ関係部門に報告し、認識させた上で然るべき対応を図らしめる。 また、3号収支分析は3号基本シナリオに基づく決定論的手法である。 金利は直近の長期国債応募者利回りが横ばいで推移するものとしている。 社内においては、今後の金利の動向を踏まえる、あるいは1号基本シナリオの金利シナリオのような、まだ金利が下がることを想定した複数のシナリオに基づく収支分析を定期的に迅速かつ正確な収支分析を行えるよう整備することが望まれる。 (1) 事態を回避するための方策の提示 A) 毎年のフローの収益力の確保 ü 収益性・付加価値の高い商品開発 ü 保有契約高の拡大方策 ü 事業費の抑制 ü 資産運用の効率化 B) 資本・内部留保の充実 ü 危険準備金・価格変動準備金・その他任意積立金の計画的積増し ü 劣後債の発行、劣後ローンの取組み ü 財務再保険の利用 ü 基金の取入れ ü 増資の取込み C) リスク量の縮減 ü 再保険の活用 ü 商品ポートフォリオの変更 ü 商品性の変更(計算基礎の変更ができる商品開発など) ü 資産運用ポートフォリオの変更 これには新規契約の支払事由を見直す商品改定を行う方法と「基礎率変更権」を留保した既存商品について見直すことの両方が考えられる。 ただし、「基礎率変更権」を留保する場合、保険募集に際して、保険契約の内容が変更されることがある場合の要件(基礎率変更権行使基準を含む)、変更箇所、変更内容及び保険契約者に内容の変更を通知する時期、予定発生率の合理性を説明する必要があること。 また、1年ごとに、保険契約者に対して、基礎率変更権行使基準に該当するかどうか、その参考となる事項、及び基礎率変更権行使基準に規定する予定発生率に対する実績発生率の状況を示す指標の推移を書面で交付する必要があること。 以上より、現時点において、「基礎率変更権」の設定、行使については、とてもハードルが高い内容となっていることを認識しておく必要がある。 ü 医的選択基準の見直し ü 諸利率(保険金据置利率、前納預利率等)の引下げ B) ALM管理 ü 定期的なキャッシュ・フローテストの実施 C) 経営全般にわたる提言 ü ニューチャネルの開拓 ü 新規ビジネスへの参入 ü 子会社の設立、分社化 ü 子会社の統合・売却、株式化 これらは初期に多額な費用を要する可能性があるため、十分な収益検証を踏まえておく必要がある。 (2) 方策の実施状況監視 事態を回避するための方策の提示をした場合は、その反映が予定どおりに行われているかを監視する必要がある。 (3) 事態が生じた場合の原因の追究 原因を追究した上で、対応策の検討の一助とする。原因として考えられるものとして、例えば、次のものが挙げられる。 ü 多額の逆ざやによる経常利益の圧迫 ü 毎年の剰余と配当水準のアンバランス ü 継続率の悪化による保険料収入等の現象 ü 死亡率、発生率の増加等による死差益の減少 ü 事業費が増加する一方、新契約の伸び悩み、継続率の悪化等による予定事業費枠が縮減し、費差益が減少 ü 資産と負債がミスマッチした資産配分 また、状況によっては、原因の分析に際し、潜在価値会計、価値基準会計等の別の会計方式(内部管理会計方式)を用いることにより、別の観点からのチェックを行う。 (4) 事態が生じた場合の対応の提示 H13-2(2)②参照。加えて、 ü 新規ビジネスを行う際の「ソルベンシー・マージン基準」を維持できる範囲内での内部留保の取り崩し ü その他合理的な経営政策の変更 <「事業継続基準」を用いた判断> (1) 法律上の破綻の判定基準となる事業継続困難の判断基準として用いられている。「保険業継続が困難である」時に、保険会社自らがその旨を申し出ることと規定されている。 ü 保険会社の財産をもって債務を完済することができないとき、又はその事態が生じるおそれがあるとき(債務超過状態:第1号) ü 保険金の支払を停止したとき、又は保険金の支払を停止するおそれがあるとき(資金繰りに窮している状態:第2号) ü 3号収支分析の結果から事業継続が困難であると判断される状態:第3号 会社全体としての財政の健全性を測るための「資本十分性検証」に該当する (2) 現時点では保険業の継続が困難である状況にはないが、将来において継続が困難となる事態に陥ることが懸念される場合、保険会社の破綻を既契約に対する契約条件の変更をすることで未然に回避する。この「保険業の継続が困難となる蓋然性がある場合」について。 ü 現時点では保険業の継続が困難である状況にはないこと ² 上記第1号、第2号の状態には無いことと推測されている ü 将来の業務及び財産の状況を予測した場合に、契約条件の変更を行わなければ、当該保険会社の財産をもって債務を完済することができない等、保険業の継続が困難になりうることが合理的に予想できること ² 3号収支分析の結果生じた事業継続基準不足相当額は「資本調達等の経営政策」を実施しなければ、「ただちに実行できる経営政策の変更」だけでは解消しない、という趣旨の意見書が取締役会に提出され、それを受けた取締役会が「資本調達等の経営政策」を実行できない」ときに、事業継続の断念を申し出ることとなる。この場合、保険業による業務停止命令か、更生特例法適用を申請するか、いずれかになる。「契約条件の変更」はこの「資本調達等の経営政策の実施」の中に「他の経営改善努力の実施」とともに選択肢の一つとして加えられたもの、と考えられよう。 事業継続基準によって、保険計理人には、会社全体の財務状況の的確な把握・分析およびそれを踏まえた提言が求められている。 このような状況の中で、保険会社のソルベンシー・マージン比率に関しては、リスク係数の厳格化が進められている。平成20年10月の大和生命の破綻や同年秋以降の金融危機の教訓も踏まえている。平成24年3月末より、この新基準を早期是正措置の指標とする予定となっている。 その中で、保険業法施行規則第79条の2、保険計理人の確認事項に「保険金等の支払能力の充実の状況が保険数理に基づき適当であるかどうか」が追加されている。 そこで、保険計理人は、事業継続基準を含めた経営に関与する重要な役割として、保険計理人の独立性、測定の客観性・公平性という要件を十分満たしていく必要があると考えている。
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ここでも、s-iwkさんより「事業継続基準のように会社全体に関わるようなものについては、アクチュアリー(あるいは保険計理人)が経営全般に関して提言していくことが望ましいような書き方になってしまいがちですが、漫然と書くと「ただ挙げてみただけ」と捉えられかねないので、挙げた項目についてアクチュアリーとしてどのような役割を果たせるのかを詳しく書くほうが説得力があります。」と指導頂いております。 少しは訂正をしたものの漫然感は拭えていないと考えております。これを読んで頂いている方からのアドバイス・講評を頂けると幸甚であります。
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