変額年金保険の商品特性
変額年金保険の商品特性の視点(生保1)より整理をしてみた。
成川さんのHp(お気に入り参照)においても参考となる資料が入手できますが、整理する上で適宜引用させて頂いた。ありがとうございます。
Ø 変額年金保険とは?
変額年金保険は、本質的には特別勘定に設定された投資信託(または専用の運用ファンド)であり、本来は運用成果により受け取る年金額もしくは解約時や死亡時の受取額が変動するものであるが、これに何らかの最低保証を付与することで保険商品と位置付けられるものになる。
Ø 最も簡易な最低保証の例としては災害死亡保証があげられるが、現在、代表的な最低保証には、
① 最低死亡給付保証:Guaranteed Minimum Death Benefit / GMDB:(普通)死亡時の元本保証
② 最低生存給付保証:Guaranteed Minimum Living Benefit / GMLB:年金開始時のような生存時の最低保証。さらにGMLBでは、最低保証の権利行使時点を契約者が選択可能な途中引き出し額を保証する商品:Guaranteed Minimum Withdrawal Benefit / GMWB(最低解約返戻金保証)も登場しており特に米国では人気を集めている。
² 年金受取額保証:Guaranteed Minimum Income Benefit / GMIB:年金開始時(満期)における年金受取額保証
更に、年金受取額保証は年金開始後も特別勘定にとどまるものと一般勘定移行するものに分類される。
特別勘定でのGMIBはGMABと比べて平均でみたオプション行使期日が長くなることで最低保証コストは割安となる。また、一般勘定でのGMIBは、年金原資換算での保証水準は100%未満となるため、GMABよりは最低保証コストは割安となる。
高齢の契約者への適合性をより意識した元本保証性重視のトレンドの中でGMABがより好まれるようになってきている
² 年金原資保証:Guaranteed Minimum Accumulation Benefit / GMAB:年金開始時(満期)における年金原資保証
Ø 最低保証リスクの基本的構造
変額年金保険の“最低保証の金融リスク”とは、特別勘定資産の価値が変動することにより発生するリスクである。
変額年金保険を管理するため、保険会社は契約者の運用資産を管理する「特別勘定」と、最低保証機能を担い事業費などを管理する「一般勘定」を持つ。「一般勘定」は、「特別勘定」からその残高の一定割合を「保険関係費用」として日々徴収し、事業費などの管理を行うと共に、特別勘定資産の最低保証をおこなっている。「一般勘定の引受リスク」は最低保証した金額と特別勘定残高との差額である。
保証された保険金を行使価格とする「保険関係費用(最低保証料と予定事業費)+運用関係費用(信託報酬等)相当の外部流出のある原資産のプットオプション」を販売していることに相当する。
変額年金保険では、一般に特別勘定の運用に保険会社は関与せず、また、投資信託に対応する手段が必ずしも市場で購入可能とは言えないため、一般的な金融商品に比べリスクコントロールの負荷は大きいと言える。
また、変額年金保険の最低保証料は特別勘定資産の残高比例で日々徴収されることが一般的であるため、特別勘定資産が減少し最低保証の本源的価値が高まるほど(インザマネー)最低保証料収入が減少し、逆に特別勘定資産が増加し最低保証の本源的価値が低下するほど(アウトオブザマネー)最低保証料収入が増加するというミスマッチ構造を有している。
さらに、変額年金保険の最低保証オプションは、その長期性と原資産が投資信託という特殊性から、市場で一般的に取引されるデリバティブでの複製が難しいという問題もある。
変額年金保険の“最低保証の保険リスク”とは、死亡や解約などの保険事故により発生するリスクである。保険リスクは伝統的な生命保険にも存在するが、例えば死亡リスクに関しては、変額年金保険では販売側のニーズもあって、年齢・性別を問わない一律の最低保証料率(保険関係費用率)や職業のみによる危険選択を行うなど、保険リスクに関してややアグレッシブなものとなっている。特に一律の最低保証料率における、契約者の年齢・性別分布の実際と仮定の乖離に起因するミスプライシング・リスクは無視できないものになることがある。
さらに、解約率に関しては、変額年金保険では特別勘定資産が減少すると解約率が低下し、逆に特別勘定資産が増加すると解約率が上昇するといった事実はしばしば観測される。しかし、このような最適行使を前提とすると最低保証料の水準が跳ね上がり、契約者にとって受け入れ難い非現実的な水準となる可能性が高い。このため、実務では、非合理的な解約行動を織り込んで、経過時間や原資産と保証水準との関係等に応じた「決定論的なモデル」が用いられることが多い。このため実際の解約と仮定との乖離により、最低保証料が不足するリスクを抱えている。
(オプションの単価に影響する金融リスクと契約の残存量に対応しオプションの数量に影響する死亡や解約といった保険リスクとの積の構造をもつため、変額年金保険の最低保証オプションは金融市場での完全な複製は不可能である。)
変額年金保険では、保険期間が長い上に、死亡あるいは解約という非金融的な事象が関与するため、金融市場での完全な複製ができない「非完備市場問題」となり、一筋縄ではいかない。可能な限り金融市場と整合的な評価を行って、市場整合的評価が困難な部分を限界的に保険料計算原理等(5-36)で補うといった複合的視点がとられる。
例えば、ヘッジ可能部分(例えば金融オプションに相当する部分)は「市場整合的評価」、ヘッジ不可能部分(例えば事業費支出や死亡等に関する部分)は「最良推定+リスクマージン」で評価して組み合わせることとされている。
「市場整合」とは、「入手可能な現在の市場価格と整合的に、あるいは市場に整合的な原則や手法・パラメータを用いて導かれる」ことを意味し、「経済価値」とは、そのように評価された「資産または負債のキャッシュフローの現在価値」を意味する。
Ø 最低保証付きの変額年金の特徴~料率設定
定額保険などの伝統的な商品においては、個々の契約から発生する収支について、改善方向と悪化方向の変動要因が独立に発生し、「大数の法則」を前提に、契約群団全体ではそれらの収支がほぼ相殺されていると考えられる。また、契約群団全体の収支は改善方向と悪化方向でほぼ対称な確率分布を持っている。そのため、保険料や責任準備金の評価については、予定計算基礎率等を仮定した上での決定論的手法が採用されてきた。
しかしながら、最低保証の付いた変額年金の場合、当初の予想よりも特別勘定の積立金の変動が改善したときの収益は契約者に帰属する一方、悪化し最低保証額を下回ったときは、保険会社がこれを補うことになる。すなわち、市場価格の変化による損益の変動が悪化方向と改善方向とでは対称になると想定することができない。
また、変額年金は「市場価格」という外的要因によって保険収支が左右され、かつ、複数の契約の損益が独立でなく一方向に収支が変動しやすいという点も従来の商品とは異なる。つまり、契約を多数保有することによりリスク分散を行うなどのリスクコントロールが難しく、「大数の法則」を前提とできない。(ただし、長時間に渡って新契約を獲得することによる時間分散の効果は期待できよう。)そのため、最低保証の付いた変額年金の保険料や責任準備金の評価においては、従来の大数の法則を前提とした「決定論的手法」だけでは必ずしも十分とはいえず、「確率論的手法」を導入することが不可欠となってくる。
確率論的手法は、複雑な給付や複数のパラメータを持つ商品に対しても、将来の収支の期待値や分散などの確率分布を把握することができる点で優れている。確率分布を把握することで、期待値だけでは把握できないその商品の損益の特性を把握することができる。しかし、確率論的手法は計算負荷が大きく、また、計算する度に結果が異なる場合には客観性・透明性を確保しておく必要がある。また、特に最低保証に係る収支の確率分布を算出する前提として、将来の運用実績自体の多数のシナリオの確率分布に仮定を置く必要があるが、その分布にも様々なものが想定され、試算結果に大きく影響するため、客観性と保守性をもって設定する必要がある。
なお、確率論的手法により最低保証に伴う収支の確率分布を把握するだけではなく、決定論的なアセットシェア計算を用いて、最も確からしいシナリオや損益分岐点、その周辺シナリオによる収支を試算しておくと、期待される収支の水準や、運用環境の変化に伴う影響を把握しやすいだろう。
また、特別勘定資産の収益率が悪化する場合に、巨大損失の可能性があるものは、悪化シナリオを重視する手法が必要と考えられる。
Ø 商品の収益性の検証
商品開発時や発売後において収益検証を行い、商品のキャッシュフローの特性を知ると共に、会社全体の収益性・健全性に与える影響について検証することは、どのような商品についても必要なことである。ただ、最低保証付き変額年金のリスク特性が他商品と大きく異なることを考えると、とくに十分な収益性の検証を行っておく必要があるといえる。すなわち、損益の分布が非対称であり、かつ大数の法則が成立しないため、運用資産の分布について、一定の仮定を置いた上で、どの程度の確率でどの程度の剰余が得られるか、あるいは損失となるのかということを把握しておく必要があり、そのためには、「確率論的手法」によるキャッシュフロー計算が不可欠となる。その際、解約率は運用資産が最低保証を上回っているかどうかでも異なるものと考えられ、とくに最低年金原資保証付きの場合、運用資産が最低保証を下回っているときの解約率はかなり低い水準であることが想定されるため、解約率も運用資産に連動させたシナリオを用いることが望ましい。また、最低年金原資保証においては、年金開始の契約者の生存という確度の高い事象であることについても留意しておく必要がある。
Ø 最後に
例えば、変額年金は投資信託と比較されることもあり、変額年金を投資型年金と呼ぶことも可能と考える。日本においては、生命保険という位置づけから投資信託と比較して、税制面で優遇をされているが、米国においては、保険商品としての保障等が小さいようであれば、保険商品とみなされなくなることがある。一方、投資信託と変額年金保険(投資型年金)の費用構造では、投資型年金にあって投資信託にないものは『保険関係費用』であり、逆に、投資信託にあって投資型年金にないものは『証券会社への委託者報酬(販売会社分)』である。この2つの数字を比較すると、明らかに前者の水準が後者の水準を上回っている。
また、米国においては、変額保険の歴史は古いが、高金利で顧客の金利選好意識が高まった時(1980年代前半、1990年代後半など)は売れるが、そうでない時には相対的に低迷する傾向がある。
日本においても、最初は昭和60年の保険審議会答申を受ける形で、昭和61年10月に業界統一商品として開発されたが、バブルの崩壊によって、顧客の期待を損なうこととなった。また、その後、一部経済の回復により、1999年4月からは、最低保証を組み入れた変額年金を一部の会社で販売開始された。2002年(H14年10月)には銀行窓販売がみとめられたことが契機になって市場は大きく拡大した。2008年のアメリカ経済危機の影響により、顧客に対する最低保証の負担増加により、一部の販売各社では販売停止までに追い込まれている。
サブプライム問題に端を発し2008年度に本格化した世界的金融危機はデリバティブの価格(インプライド・ボラティリティー)を歴史的水準に高騰させており、これが長期化するようであれば、原資産(投資信託)のボラティリティーの制御等の変額年金保険の商品性の大こな見直しが必要になるかもしれない。
また、最低保証をすることについては、リスクをフルヘッジすることが不可能であり、保険会社としてリスクを減殺するためには、より多くの危険準備金も求められてくる。
モデリング手法、統計手法、ヘッジング、リスク尺度など、これらの問題は変額年金保険に限らず、すべての保険商品のリスク管理や健全性規制にも関連しており、変額年金保険は時代のフロントランナーとして問題の所在を提起したものと捉えることができる。
この視点でのスタディーは継続しておく必要があると考えているが、変額保険は保障というよりも投資・貯蓄に限定した役割を顧客は求めていると捉える事が可能と思う。投資商品ともいえる変額保険に偏ることは、これまでの歴史を踏まえても十分に慎重な対応が必要であり、商品ポートフォリオを踏まえて十分に検討しバランス良く販売することが必要と考える。
変額年金保険の最低保証の金融市場での完全なヘッジは困難であるが、部分的であってもヘッジの有効性を否定することはできない。
ヘッジを利用して最低保証のリスクを軽減することが可能である。ヘッジには、変額年金保険の経済価値の変動リスクを軽減するための経済価値のヘッジ、損益計算書に現れるリスクを軽減するための会計価値(責任準備金)のヘッジ、株価の大幅下落等のストレスシナリオ下でのバランスシートを防衛するためのテイルリスクのヘッジなどがある。ヘッジを利用する場合には会社のニーズに適合した種類のヘッジを選ぶことが重要である。また、ヘッジに係るコストにも考慮を払う必要がある。さらに、変額年金保険の最低保証リスクを金融市場で完全にヘッジすることはできないので、ヘッジを利用する場合もヘッジ手段とヘッジ対象との経済価値のずれに常に注意を払う必要がある。
再保険を利用して最低保証のリスクを軽減することが可能である。この場合も再保険に係るコストに考慮を払う必要がある。さらに、再保険会社の信用リスクの問題も発生するため、信用リスク管理や集中リスクを回避するなどの対策も検討する必要がある。
さまざまなリスクの軽減手段を用いることにより変額年金保険の最低保証のリスクを軽減することは可能であるが、全てのリスクをなくすことは困難である。したがって、最後は会社の純資産を用いて最低保証を実施する必要が生じる。その場合でも確実に最低保証を行うためには、保有する変額年金保険のリスク量を会社の自己資本の一定割合に抑える必要がある。そのためにはリスク管理の観点から適正な販売計画を立て、それを上回る販売を行わないなどの販売コントロール策も検討しておく必要がある。
最低保証の付いた変額年金保険のリスクは主に資産の価格変動リスク(あるいは、「資産運用リスク」、統合リスク管理より)であり、これまで生命保険会社のアクチュアリーが伝統的な保険商品において取り扱ってきた死亡・発生リスクや解約リスクなどと比較すると、変動幅が大きく、大数の法則が働かないなど性格がかなり異なるものとなっている。このため、生命保険会社のアクチュアリーには、このようなリスクの分析や研究の面でさらなる役割が求められるであろう。
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