生活保護と年金
まず「生活保護」について
■生活保護制度の目的
この法律(生活保護法)は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的としています。
■生活保護制度の基本的原理
1.無差別平等の原理(国が守るべきこと)
すべての国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を無差別平等に受けることができます。
2.最低生活の原理(国が守るべきこと)
健康で文化的な生活水準を維持することができる最低限度の生活が保障されます。
3.補足性の原理(国民の側に要請されている要件)
保護に要する経費が国民の税金で賄われていることなどから、保護を受けるためには各自がそのもてる能力に応じて最善の努力をすることが先決であり、そのような努力をしてもなお最低生活が営めない場合に、はじめて行われるもので、その具体的な要件は次のとおりです。
・資産、能力、その他あらゆるものを最低生活維持のため活用すること。
・民法に定める扶養義務者の扶養義務の履行が優先されること。
・他法他施策による扶助が優先されること。
【彦根市Hpより】
■生活保護を受給する方は、以下のような義務と権利があります≫ 【厚生労働省HPより】
義務
・利用し得る資産、能力その他あらゆるものを生活のために活用しなければなりません。
・能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持・向上に努めなければなりません。
•福祉事務所から、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示を受けたときは、これに従わなければなりません。
権利
•生活保護の要件を満たす限り、誰でも無差別平等に受けるができます。
•正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることはありません。
•保護費については、租税その他の公課を課せられることがありません。
•既に給付を受けた保護費又は保護費を受ける権利を差し押さえられることがありません。
生活保護受給状況 【厚生年金・国民年金情報通HP】
Q:65歳以上人口25,672,005人のうち、65歳以上の生活保護受給者の人数は?
A:556,380人で、対65歳以上人口割合で言うことで2.2%になる。
Q:65歳以上の生活保護受給者のうち、年金を受給している人の人数は?
A:262,320人で、65歳以上で生活保護を受給している人との割合で言うと47.1%になる。全生活保護受給者との割合で言うと1.0%になる。
※生活保護を受けている高齢者の50%は無年金者
Q:65歳以上で生活保護を受給している年金受給者の一人当たりの年金受給金額は?
A:45,918円
※保護費は、最低生活費から年金収入を引いた金額が支給されることになる。
厚生労働省が、2011年3月末の生活保護受給者が、戦後混乱期の1951年、52年に次ぎ、59年ぶりに200万人を突破したと発表した。受給世帯数は、145万8583世帯で過去最多を更新。
2009年度に支払われた生活保護費が初めて3兆円を超えたことが、21日分かった。08年9月のリーマン・ショック以降、失業者が生活保護に大量に流入し、働ける年齢の受給者が急増したためだ。厚生労働省は、就労・自立支援の強化などを中心に、生活保護法などの改正を検討する。
生活保護費は国が4分の3、地方自治体が4分の1負担している。厚労省のまとめによると、09年度決算では国負担分が2兆2554億円、地方負担分が7518億円で、総額は3兆72億円。前年度より約3千億円増えた。 【記事より】
さらに駒村氏は、独自の調査で、生活保護の現状を語られている。
生活保護以下の生活水準になっている貧困世帯の2割しか生活保護で救済されていない、と言われている。
最低生活費未満の世帯は、全世帯の8%程度いる。(2004年、駒村氏独自調査)
現在、生活保護を受給している世帯(最低生活基準の世帯)は全世帯の2%程度。
つまり、生活保護の救済が無ければ、合計10%の貧困世帯が存在するということであり、現在、その2割だけが生活保護を受けている、というのだ。
また、生活保護と言うと「不正受給」ばかりが注目されているが、生活保護制度の給付総額約3兆円のうち、モラルハザード、濫給などによる不適切な生活保護給付は年90億円程度。約80%の貧困世帯が生活保護から漏れていることの方が問題ではないか、と言われている。
次に、生活保護給付と公的年金を比較してみると
生活保護による生活扶助基準額の例(平成22年4月1日現在) 【厚生労働省HPより】
|
東京都区部等 |
方郡部等 |
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) |
175,170円 |
138,680円 |
高齢者単身世帯(68歳) |
80,820円 |
62,640円 |
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) |
121,940円 |
94,500円 |
母子世帯(30歳、4歳、2歳) ※児童養育加算等を含む。 |
193,900円 |
158,300円 |
公的年金の平均年金月額 【厚生年金・国民年金情報通HP】
自営業など国民年金だけしかないような人は、たとえ満額でも月に老齢基礎年金が6万5千円ほど・・・。生活保護との金額的な不均衡は確かに存在します。次の数字は、公的年金の平均年金月額です。
老齢基礎年金の平均年金月額=5.8万円(平成17年3月末時点)
厚生年金の平均年金月額=16.9万円(平成17年3月末時点)
国家公務員共済組合の平均年金月額=22.4万円(平成17年3月末時点)
地方公務員共済組合の平均年金月額=23.2万円(平成17年3月末時点)
私立学校教職員共済組合の平均年金月額=21.8万円(平成17年3月末時点)
生活保護のほうが40年間保険料を支払った満額基礎年金よりも高くなってしまっている。しかもこの基礎年金から介護保険料、健康保険料が天引きされる。すると、手取り基礎年金額は5万円を切る状態になってくる。
ところが生活保護世帯であれば、健康保険料、介護保険料分は実質免除されている。
※満額年金をもらっていても、その金額が生活保護水準よりも低いならば、不足分について、補足性の原理に基づき、生活保護を受けることができる。
このまま高齢化が進み、高齢者の総数が増えていけば、高齢の生活保護受給者が今後ますます増えていくことは容易に想像ができるだろう。
そして、若い世代は、はじめから年金より生活保護のほうが有利であると分かってしまえば、保険料を支払わない行動にでるかもしれない。
駒村氏は、本来、生活保護は失業などの「短期的な緊急事態のための制度」として、年金は高齢者向けの長期にわたる所得の保障という考え方のもと、「短期が生活保護、長期が年金」という役割分担を想定してきたが、いま、年金と生活保護の整合性が失われ、役割分担が崩壊しつつあると言われている。
以上、生活保護と年金について、調べながら俯瞰をしてきました。
現在のところ、生活保護と年金との明確な整合性、住み分けに対する具体的な対策は難しいようですが、年金制度を確実なものとして、国民皆年金を前提とすることで、増え続ける生活保護の抑制を図りながら、生活保護と年金との間の整合性を高めていく必要があるのだと思いました。
これは、たとえ年金を「税方式」、「社会保険方式」、はたまた「ベーシックインカム」にしたとしても、生活保護と逆転していること、そして高齢化、貧困化が進む中、簡単には解決できない課題であると思います。
どの方式でも、一度にすべてを解決できない以上、負荷のできる限り少ない方法、今の社会保険方式の改善で、一つ一つをできる限り確度を高めて解決していくことしかないように思いました。
次に、もう少し定量的に「税方式」か「社会保険方式」か、を検証してみたいと思います。
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