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2011年12月24日 (土)

「蒼氓」  石川達三著 を読んで

明川哲也氏の『俺が聞いちゃる』の中で、薦められていた本でした。

自己啓発本の中には、読者に対して「幸福のために、あなたは変わらなければいけない」といったスタンスで語るものがあります。

しかし、無理に“自分を変える”必要はない。人は皆同じ価値観を持って生きているわけではありません。才能も性格も違います。ですから、ボクらにとって幸福な人生があるとすれば、それは持って生まれた才覚を生かし、その人らしく生きることだと思うのです。

つまり、自分は何が好きなのか、どんな性格なのか、何ができるのかということを日々の「奮闘」のなかで理解し、つかんでいく感覚を得ること。

啓発とはまさにそのことであって、怠け者を無理やり勤勉者に変えようとしたり、夜型の生活から朝型の生活へシフトさせることではないと思うのです。

性格を変えなさいと言われても、読者は苦しむだけです。持って生まれた器を変えようとして、変わらない自分を責めてしまう。

ボクはそんなことよりも、誰もが自分の固有の価値に気付くだけでいいと思っています。

そこで、多様な人間の価値観や生き方を知ってもらうためにも、あなたには自己啓発本でなく、少し古く、評価の高い「純文学」を読むことをお薦めします。

少し古いというのが大事で、それは話題性や流行に関係なく、ある程度の時間にわたって人の批判や忘却に耐えてきた作品だと言えるからです。

昨年ボクが読んだ中では、石川達三の『蒼氓(そうぼう)』、丸山健二の『水の家族』。人間の存在の極北を描いたこの2冊が、大きな力を与えてくれました。

毎日、職を得るために頑張る。でも、数時間は一切をシャットアウトして傑作に耽(ふけ)る。こんな“メリハリ2作りで、あなたの日々の色合いは変わってくることしょう。読む時はとにかく没頭することです。

※極北(きょくほく)とは、「1 世界の果て.2 最北端.3 a 極限,極点.b はるかなる目標[理想]」と書かれていました。

少なくともその間、あなたは本の中を旅することができる。そして、その読書体験から、あなたはより複眼的に、より俯瞰(ふかん)的に自分と世界を見ることができるようになるかもしれません。視野が広がれば、きっとチャンスも生まれますよ。

*****

と・・・・・

そこで、「蒼氓」を手に取ってみました。

ちなみに、この本も「48歳の抵抗」と同じく絶版となっていますが、「蒼氓」はWeb上で読むことが可能です。

ご参考まで。

<http://www.geocities.jp/web_hon/01/ishikawa.htm>

そもそも「蒼氓」(そうぼう)の意味とは、「無名の民。生い茂った草のごとく蒼きさすらう民」とあります。

本の内容は一言でいえば、

“昭和ヒトケタ”の昭和5年という、とても貧しい時代。ここでは、貧困のために、祖国日本を出て、ブラジルへ移民しようとする地方の農民達を、それでも力強く生きていこうとする姿を描いているように思いました。

第一回芥川賞作品でもあるのですが、その中で、1点、「政治批判」もされているところにも興味を持ちました。

とくに石川達三氏は、その時代時代の多数者の生活的体験に根ざして、かつ常識的な範囲で語られて、それが常に、その時々において広範な読者層を獲得した、と解説にありました。

つまり、多数派の想いとして、

当時、どちらかと言えば「民政党」を批判して、「政友会」を支持されたような、「民政内閣はあまりよくない」という一文がありました。

昭和5年と言えば、民政党は、「男子の本懐」で好きになった浜口雄幸氏が総理大臣であった時です。

そして、政友会と言えば、浜口雄幸氏の前の総理大臣で田中義一氏となります。

浜口雄幸氏は、緊縮財政を実施したための批判と思いますが、それは軍事費拡大を引き起こさないため、と言われています。

また、“現代”において、田中義一氏と言えば、「田中外交」と言われて、満州事変への道を進めてしまった人、

また、松本清張氏の「昭和史発掘」でも、「陸軍機密費問題」を取り上げており、その使い込みをされた人と言われています。

それでも、当時においては、浜口雄幸氏の方に批判が多くなっていたことが多数派だったのだな~、

とざんねんに感じました。

「蒼氓」は、本の中の時代は1930年(昭和5年)3月、「蒼氓」が発表されたのは1935年(昭和10年)。

その間に、1930年(昭和5年)1114日、浜口氏は銃弾に倒れて、翌昭和6年に死去。1932年に5.15事件が起こる。

そして、1936年には、2.26事件と、間違った方向の太平洋戦争へ向かっていくことになります。

これからの日本でも、自分を含め一人一人が間違った情報に惑わされないように気をつけなければいけないように思います。

最後に、山下達郎氏もこの「蒼氓」に影響を受けられて、曲まで作られています。

ご参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=lPG9gEXYMtI

「蒼氓」  山下達郎

遠く翳(かげ)る空から たそがれが舞い降りる

ちっぽけな街に生まれ 人混みの中を生きる

数知れぬ人々の 魂に届くように

凍りついた夜には ささやかな愛の歌を

吹きすさんだ風に怯え くじけそうな心へと

泣かないでこの道は 未来へと続いている

限りない命のすきまを やさしさは流れていくもの

生き続ける事の意味 誰よりも待ち望んでいたい

さみしさは琥珀となり ひそやかに輝き出す

憧れや名誉はいらない 華やかな夢も欲しくない

生き続ける事の意味 それだけを待ち望んでいたい

to find out the truth of life

たそがれが降りて来る 歌声が聴こえて来る 

では、では。m(_ _)m

*****

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コメント

Adlerさん、試験&お仕事、お疲れさまでした。論文式の試験なんて、受験する側も、採点する側も大変そうですね。
ところで、山下達郎の「蒼氓」は石川達三の小説にinspireされて書かれた曲だったんですね。とても好きな曲です。達郎さんは下積み時代、ラジオを聴きたくてトラックの運転手をされていたと聞いたことがあります。今では奥様は竹内まりあさんでセレブなイメージですが、かつて「無名の民」だった頃の感覚を忘れないでいらっしゃるのでしょうか。
先日、Story Sellerに収められていた伊坂幸太郎さんの短編を読み、とても面白かったです。「蒼氓」も機会があれば読んでみます!

山陽のキキさん、コメントありがとうございます。m(_ _)m

山下達郎氏がトラックの運転手をされていたことは知りませんでした!
サンデーソングブックを聴くと、確かにラジオが好きなのだと思えますよネ。

よいお年をお迎えください。

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