AIJ問題 その2 ~ 「厚生年金基金誕生から、そして今・・・」
厚生年金保険が昭和39年に第2回目の財政再計算を迎えるにあたり、社会保障審議会において厚生年金の給付内容の大幅な改善の検討が行われた。
事業主側からは、老後の保証という機能上の重複および負担の重複を理由に、厚生年金の大幅な給付改善の前提条件として、厚生年金と企業年金の調整を図ることで提案された。
この提案に対し、被保険者側は、社会保障の充実をさせるという観点から言えば、公的年金制度それ自体を充実拡充させるべきであり、また5人未満の事業所の強制適用等を考慮にいれると、これらの中小企業では、退職金制度すらもっていないので、調整措置といった関連を持つものは大企業だけにしか意味が無く、このような調整を行うことは厚生年金制度の後退であるとして反対の立場に立っていた。
このように「調整年金構想」については、意見の相違はあったものの厚生年金保険法の一部を改正する法律が昭和40年6月1日に衆議院本会議にて成立し、交付された。同法により、当時としては画期的ともいえる給付改善(いわゆる1万円年金(月額))が実現することとなった。
そして、調整年金、どうして代行制度というものができたのか
昭和40年の厚生年金保険法の改正は給付改善を行うという改正でしたが、その際の保険料の引き上げに反対する事業主側が、国に納める保険料の一部に退職金原資を加えて、自主的に運用する仕組みを提案。
当時は「調整年金」というようなことが言われていましたが、これがそもそもの発端。この「調整年金」というのが現在の「厚生年金基金」という形で誕生して制度化をされたということです。
その結果、厚生年金基金は、昭和41年に発足。
制度発足当初より、5:3:3:2規制などの措置が講じられてきましたが、その後、経済界からの要望、日米構造協議におけるアメリカの要請、行政改革委員会、規制緩和小委員会いおける指摘、金融の自由化、規制緩和の流れなどを受けて、平成9年、5:3:3:2規制が廃止され、各基金が自己責任の下で自主的に運用を行うことが原則となりました。
平成2年には投資顧問が基金の運用の委託先として参入。
資産運用規制の撤廃をしました平成9年に年金局長通達ということで、ガイドラインが示されている。
※「5:3:3:2規制」とは、1997年12月に撤廃された年金資産の運用における資産配分規制のことです。安全性の高い資産5割以上、株式3割以下、外貨建て資産3割以下、不動産等2割以下の数字をとって「5:3:3:2規制」といわれました。撤廃後はすべての基金で自己責任に基づく自由な資産配分が可能となりました。
そして今、厚生年金基金等の企業年金の現状 (平成22年度末時点)
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現在加入者数 |
件数 |
資産残高 |
厚生年金基金 |
約450万 |
595基金 |
約28兆円 |
確定給付企業年金 |
約730万 |
約1万件 |
約42兆円 |
確定拠出年金 |
約500万 |
3705件 |
約5.5兆円 |
合計 |
約1700万 |
- |
- |
◎上記595基金のうち、中小企業が集まって作る総合型が8割を占めている
◎上記595基金のうち、最低責任準備金未達(代行割れ)が約4割の213基金。さらに指定基金が81基金
◎上記595基金のうち、上乗せ部分の予定利率は5.5%のままが9割を占めている
◎全体として、こうした企業年金への加入者数は、10年前は約2000万人程度でしたが、直近では、1700万人ということで、概ね厚生年金被保険者の4割ぐらいが加入している状況です。
今回のAIJ問題を発端として、「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」では、次の方向性が打ち出されています。これは時代の流れなのでしょうか?
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“厚生年金基金制度の将来的な廃止”、“解散要件の緩和”、“中小企業への影響緩和”、“基金の合同運用及び合併”、“検査態勢の強化”、“情報開示”、“役員公募の徹底”、“受託者責任の強化”と、こういった方向性での中間報告、取りまとめをされるべく対応がなされてます。
残念ながら今回の事件で企業年金、特に厚生年金基金への信頼は非常に傷んだので、加入者・受給者の信頼を取り戻すためには、ガイドラインの修正とか、研修をしっかりやりましょうといった小手先の対応では不十分で、基金の実務体制の変更に踏み込んだ対策が必要ではと考えます。
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ではでは、また。m(_ _)m
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