「君たちに明日はない2-借金取りの王子」 垣根涼介著 を読んで
「君たちに明日はない」を今年の初め頃に読んでいました。これは、その続編となります。
とてもよかったです!
作家の垣根氏は、おそらく間違いなく?ハードボイルド作家に属すると思うのですが、自分には無い、とても特徴ある主人公 村上真介(人事部に代わって、退職勧告をするリストラ業務請負会社『日本ヒューマンリアクト(株)』に勤める)の行動、心理描写が、とても興味深く、あっという間に読めてしまいました。
自分自身は、“リストラ”と言う言葉も好きでなく、リストラする会社は一流ではない(少なくとも第5水準ではない)と思うのですが、それでもそのような会社が多い中では、村上の勤めるような会社が現れてくるのだろうと思います。必要悪なのかもしれませんが、その場合に、村上や村上の会社社長 高橋のような人たちであれば、まだ世の中はなんとか救われているのでは、と思います。
この本は、2007年に書かれた本となりますが、ついに続編には、リストラを行う生命保険会社が『東京安井生命』と言う名前で出てきましたヨ。
これは、リストラを行う会社毎に一話完結型となっているのですが、ほかに、百貨店、消費者金融、ホテルの短編が集まっています。
中でも、「君たちに明日はない2」の副題にある、“借金取りの王子”がとてもよかったです!
消費者金融「フレンド」を舞台とするリストラの話になります。
ここでのリストラの対象は、三浦宏明、30歳、現役で慶應大学・経済学部を留年することなく卒業して、新卒で入社。しかも、二枚目なのであだ名が“王子”。それで、「借金取りの王子」となるようです。
宏明が今の会社(消費者金融フレンド)に就職を決めたのは、とくに深い理由があったからではない。
友達に誘われて、たまたまこの会社の企業説明会に出たところ、3年勤めれば家が建つ、と言われた。さらに頑張れば、その家のローンを30歳前までに完済することも可能だ、と。特に家が欲しかったわけではなかったが、少なくとも仕事で実績さえ上げれば、それに給料で報いてくれる会社だということは分かった。
今仕事で頑張ったぶんを、すぐ今の給料に反映してくれる会社のほうがいいかもしれない。貯金さえしておけば、万が一の将来にも役立つ・・・・。そう感じた一因には、宏明の父親が少年時代に恩義のある知人の保証人になり、挙句その借金を被って、一時期はひどい極貧状態に陥った事とも無縁ではないかもしれない。
このような動機で入社したものの、この業界では「優しすぎた」が禍となるようです。
一方で、
入社時の上司(店長)は池口美佐子(宏明より4つ年上で、のちの宏明の「お嫁さん」へ)、父親が母親の浪費癖に愛想を尽かし、会社の女と蒸発。金に困った母親は場末のソープ嬢になった。その後、中学生の頃からはスピンアウトの人生、筋金入りのヤンキーとなり、中学卒業後は、不良少女を集めてレディースを結成、地元の暴走族と派手な乱闘をおこし、保護観察処分、同時に高校を退学。そして、17歳で東京にでてきて、フレンドに入社。
入社の理由は、仕事さえできれば学歴も男女差も関係ない職場だったかららしい。美人だが、いまさらこの世の中にあたしを驚かせるものなど何もないといった、不敵そのものの面構えをしていた。
こんな2人が“一緒”になる話もあって、とてもよかったです。
*** この「物語」のなかで、気になった言葉として・・・ ***
結局仕事とは、「人間性」なのだ。(村上)
たぶん、おれはあの社長の下だと“居心地”がいい。それは他の社員たちも同じだろう。だから、こんな首切り会社に居続ける部分もある。(村上)
もう少し“居心地”の良いここで、池口の下で働きたいのだ・・・(三浦宏明)
「お金はね、大事だよ。」(池口)
そして、「解説」より抜粋します。
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「昔、聞いたことがある。たしかイギリスのどこかに、将来を嘱望されている非常に優秀な大学医がいた。あるとき彼は、北アフリカのとある港町を訪れた。船からその町を見た瞬間、すべてを捨ててその町に住む決心をした。実際にそこで、しがない検疫官として暮らし始めた。安定した今の生活と、薔薇色になるだろう未来も捨ててね。
十数年後、友達が彼のところを訪ねた。とても貧しい暮らしだったらしい。で、友達は聞いた。すべてを捨てた挙句がこんな暮らしで満足なのかって。彼は笑って答えた。満足だよって。この暮らしに、一度も後悔を感じたことは無いって」 (村上の言葉)
現代社会への警鐘をならしつつ、現代社会であぶれもんのレッテルを貼られた「リストラされた人」への、もっと素敵な生き方もあるぜ、きっと!このまま負けるな!という愛情と応援がこの作品のメッセージなんだ、と。
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最後に主人公「村上真介」の趣味? 一面について。
なんとなく、カッコイイですよね。(*^.^*)
イメージ(テレビ化されていますので・・・)
乗っているくるまは銀色のコペン(ダイハツの軽のスポーツカー、Compact Openの略だそうです)、腕時計はシチズンの電波時計とありました。
コペン、なかなかスタイリッシュで可愛いですよね。
m(_ _)m
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