「医学生」 (南木佳士著) を読んで
「阿弥陀堂だより」、
「ダイヤモンドダスト」、
「からだのままに」、
「ふつうの医者たち」につづき、南木氏のいよいよ5冊目です。
平成元年(1989年)に、「ダイヤモンドダスト」で、芥川賞を受賞。
翌年の平成2年(1990年)にご病気(うつ病)になられて、それから2年が過ぎて、再び書きたい欲が芽生えたそうです。
ただ、これまでのように内向するだけの、深刻ぶった、いわゆる“純文学”らしい“純文学”は書きたくなかった。肩の力を抜き、己を救うためのユーモアを交えた小説を書きたかった。
そんなのとき、ふと頭に浮かんだのが「医学生」の頃の想い出だった、と。
書き下ろしで、単行本として出されたときのキャッチコピーは「必死のユーモア、誠実な青春」だったそうです。それと、表紙の「憂い」に満ちた青年の肖像画、この小説の中身を上手に表現されているように思います。
この小説には、医学生として、
車谷和丸、
桑田京子、
小宮雄二、
今野修三の4人が登場します。
ほかに、
解剖学教室の講師の依田、
京子の夏期病院実習先、信州の総合病院で内科医長を勤める上田
どの人物にも、南木氏の分身が入っているように思います。
どの人物も優しい人たちでした。
ここで、「憂」と「優」について、少し調べてみました。
人間は憂えなければ人物が出来ない。
何の心配もなく、平々凡々幸福に暮らしたのでは、優という文字の真義からくる“優秀”とは言い難い。
憂患を体験し、悩み抜いてきて初めて、人物も余裕も出来てくる。 【安岡正篤】
憂(ゆう)は憂(うれ)うで、優(ゆう)は優(すぐ)れている・優しい・役者(俳優)という意味を持つ言葉ですが、ここで安岡氏の言葉通り、憂から優が発生したようです。
***
憂は、頁(あたま)+心+夊(足を引きずる)」で、頭と心とが悩ましく、足もともとどこおるさま。かぼそく沈みがちな意を含む。
優は、「人+憂」で、しなやかにゆるゆるとふるまう俳優の姿とあります。
心が沈んでいる時の身のこなしが、しなやかでゆるゆるとしている所から、俳優を表わすようになり(今の俳優とは違い能などと近い動きとのこと)、また、その身のこなし方から優しいともなり、またその動きの美しさから、優れていること(優秀)にも使われるようになったそうです。
***
憂患を体験し、悩み抜いてきて初めて、人物も余裕も出来てくる。
そんな「憂い」の頃の学生時代を描いた物語、そして、それが今の優しい医者たちへとつながるように思いました。
ではでは、また。ありがとうございました。m(_ _)m
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