「生きのびるからだ」 (南木佳士著) を読んで
南木氏のいよいよ10冊目となりました!
本書は、2007年~2009年、南木氏、56歳~58歳のときのエッセイ 33編を集めたものとなります。
かなり最近の文庫となります。現時点では、これ以上あたらしい文庫はまだ無いように思います。
精神が落ち込んでいた時期に小さな画集で見た、セーヌ河畔の風景を描いた「シスレー」の画は、川面を渡る風の柔らかさまでも感じられるようで、眺めている時分が安らいできた。
哲学者の「大森荘蔵」は、風景そのものに感情があり、その点景としてひとも嬉しかったり哀しかったりする、それをよく知っていたのが“印象派”の画家たちだ、とエッセイに書かれていた。
そう言われてみると、風景を描いている「シスレー」の心情が画にあらわれ、その画を見ているこちらの気分も画そのものの感情の一部と化してゆくようだ。印象派とはよくいったものである。
“湯”に入り、“粗酒粗肴” ながら盛り上がった・・・・・・・いいネ!
世に存在することそのものの不安に日々さいなまれた中年の時期には「大森荘蔵」に頼り、初老の域に入ってようやく自由にからだを動かしてみようと思い立った折に、競争なんて意味が無いから気持ちよくからだを動かそうよ、と説く「丘沢静也(おかざわ しずや、1947年10月17日生まれ、日本のドイツ文学者、首都大学東京名誉教授)」に出合った。
『マンネリズムのすすめ』
生きる知恵の根本、人生でなにより大事なのは、どんなにみっともなくてもとりあえず生きのびること。
この身にとって心地よい言葉はよけいなフィルターを通さずに素直に受け入れる“習慣”は、心身を病んでからおのずと身についた。
哲学者エピクロスを読み、心身ともに平静な状態「快」を生き方の基準に据える彼の教えが文字どおり身にしみてきた。「快楽主義」の実体は酒池肉林に遊ぶことではなかった。「快」を得るためには節制をこころがけ、静かに暮さねばならない。
“からだのままに生きのびるからだ”、
ひとのからだに関するこの単純きわまりない印象は超高齢者を相手にする医者として、彼、彼女たちから無言のうちに示された貴重な教訓でもある。
ひとは生きのびるために変容するのか、変容するから生きのびられるのか。
自身の体験をふまえてみても、まだこの問いの答えは見つかっていないゆえ、これからもこだわってゆきたい。
「あとがき」より
生きのびるのは個人の意志や思想ではなく、むきだしのからだそのものなのだと教えられる医療現場に居続けたゆえに生まれた諦念を記したエッセイがほとんどで、読んでも元気は出ないけれど、したたかに生きるための基本はお伝えできる気がする。
あらゆる悲観が飛び交う今日この頃、最後に信頼できるのは、案外、おのずから生きのびようとするからだのしたたかさなのだ、きっと。
さいごに、『マンネリズムのすすめ』より、
からだを動かしていない者の書く文章には「肉体」や「身体」が使われ、動かしている人は「からだ」とひらがな表記する場合が多いと書かれているそうです。
そこで、わたしは、「からだ」と書くようにしていますヨ!
“からだのままに”、“生きのびるからだ”。
ほどほどに節制をしながら、生きのびていきましょう!
失礼いたしました。m(_ _)m
こちらは、シスレーの絵です。
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