確定給付企業年金制度(DB制度)、持続可能な魅力ある制度として存続できるか
整理を試みてみました。
結論としては、いまは出題の可能性が低いように思いました。理由は、
同様の問題として、年金1 H22_4Bに出題されており、その後、法令等改正により、改善がされており、現在、残されている課題は「減額要件の緩和」になるようです。これはH24 4Aで昨年出題されているためです。
さらに言えば、DC制度をより魅力ある制度とするには? もH24 4Bで出題されています。
となると、今年の年金1の所見予想は、平成24年の改正を踏まえた「退職給付会計」でしょうか?
※H22以降の改善事項は下線付きを参照
以下、それでも理解をしておくために整理をしてみました。ご参考まで。
もし間違いなどありましたら、ご指摘をいただけると助かります。m(_ _)m
運用環境の悪化により、企業年金制度における積立不足が企業の経営を揺るがす大きな問題となる社会情勢のなかで、公的年金が縮小傾向にあり、これまでに増して、企業年金制度は公的年金を補完する位置づけが強くなってきており、確定給付企業年金制度(以下、DB制度という)もそのひとつである。
しかし、DB制度の現状やそれを取り巻く環境の変化、例えば、
○運用のボラティリティの拡大による年金財政の悪化
○退職給付会計基準の変更に伴う積立不足の即時認識の実施
により、企業年金制度の積立不足を解消すべく、掛金負担を増加させる必要性がでてくる。その結果、企業は積立不足が大きく変動する可能性のあるDB制度を避け、企業のリスクのない「確定拠出年金制度(DC制度)」や「退職金前払い制度の導入」に拍車がかかることが想定される。
一方、DB制度は、本来の老後の安定的所得保障として一定の役割を担っていくものとも考えられる。
DB制度を持続可能な魅力ある制度としていくためには、制度の設立目的にある受給権保護とDB制度の存続の両面から、現状の課題とそれにかかる対応策を挙げてみる。
① CB制度の見直しとその採用
② ボラティリティの大きい運用環境に対する対応
③ 財政運営基準の見直し
④ 減額要件の緩和
⑤ 魅力ある制度設計の構築
① CB制度の見直しとその採用
現在のCB制度で認められている指標は国債の利回り等に基づいて定めることで、金利リスクを抑えることができ、とりわけ“退職給付会計上”の安定化を図ることができる。しかし、年金財政上では、一定程度の安定化は図れるものの、当該指標以上の予定利率を設定している場合が多く、近年の低金利下においては、運用を株式等のリスク資産への投資も含めて行わざるをえない状況となっている。その結果、運用環境の悪化が大幅な積立不足を招くことにつながっている。一方、予定利率を引き下げることは、掛金負担の増加にもつながる。
そこで、指標の設定方法を株式インデックスの採用およびこれを組み合わせた方法を可能とすることを提案したい・・・・・導入されてますよね?以下を【参考】
【参考】
キャッシュバランスプランとは?
平成14年4月より「厚生年金基金の加算部分」および「確定給付企業年金」の給付設計において認められた。
「確定給付型」の制度に分類される。(第3分冊81頁)
キャッシュバランスプランは、給付額の算定方法が予め規約に定められており、算定方法の中で使用する利率に関する部分については、その決定方法が規約に定められていて、実際の利率は国債の利回り等の市場動向に応じて変動するものであり、「確定給付型」と「確定拠出型」の両方の特徴を持っている。
年金資産の運用に関して他の確定給付型年金との違いはなく、給付債務に対する運用リスクは企業が負うこととなる。また、退職給付会計上は、予測給付債務(PBO)に基づく会計処理が必要となる。
退職給付債務の計算に使用する割引率とキャッシュバランスプランでの指標に連動性を持たせることで、従来の確定給付型の給付設計に比較し、割引率の変動による退職給付債務・費用認識の変動を抑えることができる。
*****
「年金数理テキスト」では、 ※改定差し込みは2006/4/21なので、2012年法改正は含まない
「キャッシュバランス制度」は確定給付型と確定拠出型の企業年金の中間的な性質をもつ制度であり、「ハイブリッド型制度」の1種である。確定給付型の企業年金であれば、給付が先に決まり、そのために必要な保険料を徴求する仕組みであるが、「キャッシュバランス制度」の場合、給付が「国債の利回り等」に応じて変動して決まる。
給付の額が変動するものの、実際の年金資産の運用成績とは無関係であり、その変動幅も限定されるので、キャッシュバランス制度は確定給付型の企業年金の範疇となる。
そして、2012年、平成24年1月31日公布 通知改正
キャッシュバランスプランにおいて、年金債務と年金資産のギャップを可能な限り小さくする 観点から、市場インデックスに基づいて、年金原資に利子を付すことが出来るよう、指標の例に東証株価指数等を加える。 ※厚生労働省 2012/11/27 厚生年金基金制度に関する専門委員会資料より
Actuarial Mathematics for Life Contingent Risksの書評 を読んで
Actuary JPさんHpより、
「保証リスク」について
日本においても、「変額保険のリスクマネジメント」の必要性とその重要性について、付言は要しないと思う。その他にも、例えば、企業年金の分野で、保証リスクを吟味すべき制度が日本でも生まれている。その代表例が、金利変動に伴って給付額が変動する「キャッシュバランス・プラン(CBプラン)」である。従来の一定の金利を保証する給付設計に加え、“市場インデックス連動型”のCBプランの導入も可能となった。
既存のCBプランの多くは、国債の利回りを基準に設定されている。現在の低金利の環境下においては、保証利回りの下限を設定したとしても、その保証リスクは限定的であるが、一方でこの“市場インデックス連動型”のCBプランが採用された場合、その「保証リスク」のインパクトは「金利リスク」の比ではない。既存の年金数理の枠組みを用いて、企業年金のリスクマネジメントを行うことの妥当性について、再考すべき時期に差し掛かっているのかもしれない。
http://www.mercer.co.jp/survey-reports/1431920
⇒コラム523 規制緩和されるキャッシュバランスプラン?2012/7/24
以下、抜粋
「キャッシュバランスプラン」の新たな指標として、市場インデックス(東証株価指数等)が追加される。
(中略)
ここで、「指標はゼロ以上」という条件があるため、株価がプラスの場合は給付に反映され、マイナスの場合は会社が補填するということとなるので、会社にとって、導入するメリットがないどころか、むしろ、株価の大きな変動性により、会社はより大きなリスクを抱えてしまうことになる。
規制緩和を望む関係者にとっては残念かもしれないが、そもそも、給付を約束するという確定給付企業年金制度で株価連動の「キャッシュバランスプラン」とは、確定拠出年金と性格がどう異なるのか、何を約束した給付なのか、その受給権とは何なのかよく議論される必要があるのだろう。企業会計においても、株価指数を指標として選んだような制度の退職給付債務とはどのように測定されるべきか色々な意見があり、退職給付会計の根本的な課題ともなっている。
※「確定拠出年金制度をより魅力ある制度とするには」も参照
② ボラティリティの大きい運用環境に対する対応
予定利率の引き下げを行うことで利差損の発生を抑えることが理想であるが掛金負担の増加に対応できない企業もすくなくない。また、財政検証に抵触し、追加掛金の拠出が困難な企業も多い。そこで、将来の不足金に対応する準備金を構築するために、企業の実情に応じて、積立上限額の範囲内で、掛金拠出ができるようにしてはどうか。また、厚生年金基金でみとめられている当該年度に発生が見込まれる不足金に充当することを目的とした「特例掛金」の設定をDB制度でもできるようにしてはどうか。なお、積立上限額の範囲内であれば過剰損金の問題はないものと思慮する。
⇒いまは「特例掛金」がDBでも認められています。出典は、4-69、JPAC本のP177より
また、H21.4でも「特例掛金」の設定の必要性を求めています。
③ 財政運営基準の見直し(第3分冊35頁)
(当時の特例措置(下方回廊方式)の恒久化としていますが、今は特例措置終了のため、参考にできないと思います。)
④ 減額要件の緩和
企業の経営状況等を踏まえて十分に検討した上で、制度を継続する手段として給付減額を実施せざるをえない場合には、適切なプロセスによる労使合意をもって減額変更が可能となるような制度・手続上の要件を見直すとともに、受給権者等についても加入者との著しいアンバランスが生じないよう、例えば、加入者の過去分にかかる給付水準を減額させないようにするなどの要件の見直しを行うことが望まれる。また、安易に制度終了の方向へ進まぬよう制度終了の要件を少なくとも減額変更と同程度以上の要件を設定すべきものと思慮する。
⇒【H24.4A】:確定給付企業年金制度の給付減額基準に関する所見を求める問題
【H22.4A】:確定給付企業年金制度の給付減額を実施する場合の現状の取扱いについての問題点とその改善策
【年金数理人会H22.6】:厚生年金基金および企業年金基金のそれぞれの受給権者減額及び基金解散に対して、見直しに関する所見を求める問題
【第4分冊23頁、法令198頁】
⑤ 魅力ある制度設計の構築
DB制度の魅力は、「終身年金」の設定が可能なことであるが、一方で長生きリスクなどを企業が負担することになるため、導入している企業は多くない。終身年金を設定しているDB制度に対する制度上あるいは税制上の優遇措置を設けることで、企業の終身年金設定に対するインセンティブを作っていく必要がある。この場合、DB法だけで解決する範疇ではなく、公的年金制度およびそれにかかる税制も含めた検討が必要である。
※DCでも、通常、5年以上20年以下の有期年金となっているが、運用している商品が終身年金を提供する場合はその限りでない。(JPAC 142頁より)
あとは今週の勉強会でブラッシュアップ!?
ではでは、また。失礼いたしました。 m(_ _)m
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