「オー!ファーザー」 伊坂幸太郎著 を読んで
4人の父親たちとその息子由紀夫を中心とした物語。
後半がとくに面白く、前半は3日ほど、後半は1日で、平日に読了!
ありがとうございましたm(_ _)m
ここでは物語の内容というよりも、その中で気になった“言葉”を書き留めておきたいと思います。
「この国も終わりだね」、「ずっと前から終わっている」
由紀夫は、父親の一人、大学教授の悟から、日本の経済や政治の動向についての話を聞く。それを耳にするたび、この先、どうやってこの国が経済や治安を回復していくつもりなのか、皆目、見当がつかず、“絶望”を感じた。高校生の俺でさえ、暗澹たる未来に鬱々となり、いても立ってもいられなくなる、と。
夏目漱石氏の約100年前の著書「三四郎」でも書かれている。『亡びるね』、と。
そして、その後の1945年に、日本は一度終わっている。
伊坂氏に夏目氏と”同じ感覚”が無いことを祈りたい・・・
ほかにも、
「だから、いまの政治家もどちらかにこだわるんだ。戦をはじめるか、もしくは、法律を作るか。歴史に残るのはそのどちらかだと知ってるんだ。地味な人助けはよっぽどのことでないと、歴史に残らない。」
“戦”の情景を想像してみる。たくさんの人間が、強制的に戦場に送られたのではないか、そこでは言葉にするにも恐ろしい残忍なことが行われたのではないか、黒々としたおぞましい駆け引きが武士たちの間で交わされたのではないか、と考える。家に妻や子供を残した男が、無理やり戦場に連れて行かれ、さあ殺しなさい、死になさい、やりなさい、と突撃を命じられ、戦の勝敗も分からぬまま刀で斬られ、目玉や内臓を飛び出させたまま死んでいく。そんなことばっかりだったのではないか、と想像した。結局、昔も今も人間の構造は同じだもんな、ということに由紀夫は思い至る。
「うまく言えないんだがな、たとえば、ある時、世界中の誰もが、自分の子供に対して、『他人を苛めるくらいなら、苛められる側に立ちなさい』と教えることができたなら、いまの世の中の陰鬱な問題はずいぶん解決できる気がするんだ。そういう考え方の人間だらけになったら、な。ところがどうだ、現実的には誰もそんなことはしない。『(苛められるよりは)苛めっ子になれ』と全員が願うほかない。被害者よりは加害者に、だ。ようするに結局は、自分たちが悲劇に遭わなければ良い、と全員が思っている状態なわけだ」
「だから、温暖化も苛めも、戦争だって、そりゃ、永久になくならないはずだ、と改めて思っただけだ」
【由紀夫の父親の一人、大学教授の悟の言葉】
「性善説みたいに、あまり、子供や人間に期待してると馬鹿をみる。だろ?暗い部分を分かった上で、どうにかするしかない。」
「で、勲さんは例のマイケル・ジョーダンの言葉を生徒の前で繰り返すわけだ」(由紀夫)
『俺は何度も何度も失敗した。打ちのめされた。それが、俺の成功した理由だ』
【由紀夫の父親の一人、中学の体育教師、勲の言葉】
「いくら外側が可愛らしくても、蓋を開ければ結局、賭けごとと勝ち負けの横行する、きな臭いギャンブル場じゃないか」
「それはこのレース場に限った事じゃねえよ。“社会全体”がそうなってんだって。見た目は優しく、平和で、みんな平等みたいに見えるけどな、中を見てみりゃ、勝ち負けと不平等の横行するきな臭い賭場みてえなもんだ。」
【由紀夫の父親の一人、鷹の言葉】
(解説より)
教育の現場で最も求められていることの一つは「世の残酷さ」、「現実の理不尽さ」に向き合う勇気を与えることだと思う。学校はフェンスと守衛に守られた世界に過ぎず、まだ真の敵は現れていないし、挫折や失敗の傷は浅く済んでいる。これから現実界に足を踏み出す者は、予想不能な残酷さや理不尽に直面しなければならない。あらかじめ準備できることは少ないが、例えば伊坂幸太郎を読むことは大いに意味がある。
そして、物語の最後の方で、
父も自分も老いていくという当然のことと、これからの時間のことだ。
「あの人たちも年取ってきたなあ、って」 息を吐く。(由紀夫)
「きっと一人ずついなくなっていくから、なんとなく、変な感覚だろうな」
“家族”はいずれ、一人ずつ消えていくものなのだ。
「何それ」(友人の多恵子)
「寂しさも4倍なのか」(由紀夫)
「よくわかんないこと言わないで」(多恵子)
「そうだな」と由紀夫も認めた。
⇒ここでは、「人生」を考えさせられましたネ。(* ̄0 ̄)ノ
ミステリー、ファンタジーのジャンルは、ほとんど読まないのですが、伊坂幸太郎氏の本では、これまでも「魔王」、「PK」もよかったです。なんかスゴイと思いました。
ありがとうございました。m(_ _)m
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