平成26年、公的年金について
「日本の年金制度は、平成16年改革の年金財政フレームで、将来的な負担の水準を固定し、給付を自動調整して長期的な財政均衡を図る仕組みとすることで、長期的な持続可能性が確保されていく仕組みとなった。
平成16年改革の年金財政フレームについての「課題」
ア)経済環境を踏まえた課題、
イ)労働環境を踏まえた課題
各々の課題について、取り得るべき対応策について
ア)経済環境を踏まえた課題、
平成16年の年金改正の財政安定化策の柱の一つである「マクロ経済スライド」は、物価、賃金が上昇している際に、年金額の上昇幅を抑制する仕組みであるが、近年、物価及び賃金が低下傾向であり、まだ『スライド調整率』自体が発動されたことがない。
賃金・物価がマイナス局面の場合には「スライド調整率」は適用しない。
賃金水準や物価水準が低下した場合には、賃金や物価に応じた年金額の減額改定は行うが、マクロ経済スライドによる給付水準調整は行わないこととされているため。
給付の大宗を社会保険制度で賄っている年金・医療・介護については、すでに財源の4割弱が公費(税財源)で占められており、これらの給付が増えれば、必要となる税財源が増えていくこととなるが、社会保障をめぐる財政は社会保障関係費が増大する中で、それに見合った税負担がなされておらず、その不足分をいわゆる赤字公債で補っている状況であり、消費税が増税された後でもこの構造が解消されるわけではない。こうした状況は、国・地方を通じた財政の健全化、社会保障の持続可能性、世代間の公平という観点から極めて問題である。
こうした日本の財政状況を踏まえれば、社会保険への税の投入については、上記の所得格差の調整を含め、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすべきである。
一方、社会保険は、透明性と納得性にその特徴があることから、制度が必要以上に複雑にならないようにできる限り努力しなければならない。
将来の社会を支える世代への負担の先送りの解消
国の基礎的財政収支対象経費に占める社会保障関係費の割合が4割を超えており、税収は歳出の半分すら賄えていない状況に照らせば、社会保障関係費の相当部分を将来の社会を支える世代につけを回しているということになる。
現在の世代が享受する社会保障給付について、給付に見合った負担を確保せず、その負担を将来の社会を支える世代に先送ることは、財政健全化の観点のみならず、社会保障の持続可能性や世代間の公平の観点からも大きな問題であり、速やかに解消し、将来の社会を支える世代の負担ができる限り少なくなるようにする必要がある。高齢化が急速に進む中でも、将来の社会を支える世代の痛みを少しでも緩和するために、現在の世代が、何ができるのかをしっかり考えなければならない。
いずれにせよ、受益と負担が見合わない社会保障はいずれ機能しなくなり、その結果、社会の活力を失わせてしまうこととなる。このように社会保障制度改革と財政健全化は、同時達成が必須となっている。
イ)労働環境を踏まえた課題皆保険・皆年金のセーフティネット機能(防貧機能)の弱体化
近年、被用者保険に加入できず、さらに国民年金や国民健康保険の保険料が未納になることによって、皆保険・皆年金の網の目から漏れてしまう非正規雇用の労働者が少なくないことが大きな問題となっている。(社会保障制度改革国民会議P4)
今日の日本の社会及び社会保障制度は、人口構成の大きな変化、雇用基盤の変化、家族形態・地域基盤の変化、貧困・格差問題、世代間の不公平、孤独・孤立の広がりなどの問題に直面しており、これらの問題に対応するため、年金・医療・介護・子育てなどの社会保障制度の持続可能性の確保と機能強化が求められている。
さらに、次代の日本を担うべき若年層の雇用環境は極めて厳しい現状である。
若い世代がいかに夢を持って生きていけるかは、日本の社会の将来の明るさを写す鏡であり、早急な就労支援策、非正規雇用対策が必要である。資源なき国家日本における最大の資源は「人材」であり、社会保障などの政策対応を通じて、国民一人ひとりの個性と能力が最大限に発揮できるような社会を造り上げていかなければならない。
半世紀前には65歳以上のお年寄り1人をおよそ9人の現役世代で支える「胴上げ」型の社会だった日本は、近年3人で1人の「騎馬戦」型の社会になり、このままでは、2050年には、国民の4割が高齢者となって、高齢者1人を1.2人の現役世代が支える「肩車」型の社会が到来することが見込まれている。
「平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク」 について
・上限を固定した上での保険料の引き上げ(保険料水準固定方式)
・負担の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み(マクロ経済スライド)
・積立金の活用(有限均衡方式。おおむね100年間で財政均衡をはかる方式で、財政均衡期間の終了時に給付費1年分の積立金を保有)
・基礎年金の国庫負担を2分の1へ引き上げ
平成16年改正により、最終的な保険料(率)の水準を法律で定め、その負担の範囲内で給付を行うことを基本とする制度となった。これは、急速に進展する少子高齢化に対応するために負担の上昇が避けられない中、若年層を中心として、負担がどこまでも上昇してしまうのではないかとの不安が大きいことから、将来にわたっての保険料水準を法律に明記することによって固定した。
「保険料水準固定方式」は、従来は5年毎の財政再計算の際に、人口推計や将来の経済の見通しの変化等を踏まえて、給付水準や将来の保険料水準を見直していたのに対し、
最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、少子化等の社会経済情勢の変動に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組みを制度に組み込む方式。
この場合、少なくとも5年ごとに行われる財政検証において将来の年金財政の見通しを明らかにしつつ、給付水準の自動調整を続けていき、次回の財政検証までの間に所得代替率が50%を下回ることとなる見込みとなった時点において給付水準調整の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了その他の措置を講じることとしており、併せて、給付と負担のあり方についての検討を行い所要の措置を講ずることとしている。
具体的には、次のような見直しが考えられる。所得代替率の下限、年金支給開始年齢、保険料水準。
「マクロ経済スライド」とは、「保険料水準固定方式」を導入した際に必要となる給付水準の自動調整の仕組みの一つであり、
年金制度を支える力である社会全体の所得や賃金の変動に応じて給付が調整されるように、年金改定率(スライド率)が自動的に設定される。
100年間の財政の収支を計算し、マクロ経済スライドによる調整を行わなくても100年間の収支が均衡する見通しが立つまでは、スライド調整が行われます。
社会全体の年金制度を支える力の変化と平均余命の伸びに伴う給付費の増加というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組み。
具体的には、少子化等の社会全体(マクロ)の変動の実績(または将来の見通し)を、一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に反映させることにより、時間をかけて緩やかに給付水準を調整する。(マクロ経済スライド)
新規裁定年金の改定率=賃金上昇率(可処分所得上昇率)-スライド調整率
既裁定年金の改定率=物価上昇率-スライド調整率
「スライド調整率」を減じている。
「スライド調整率」とは、
公的年金全体の全被保険者数の減少率の実績(3年平均)(0.6%)+平均余命の延びを勘案した一定率(0.3%)=2025年度までは平均年0.9%程度となる見込み
取り得るべき対応策
年金財政問題の解決策は4点しかない。
また、それらはすべて実行中であると言える。
1. 平均年金月額の引き下げ⇒マクロ経済スライドによる給付調整
2. 支給開始年齢の引き上げ ⇒2025年まで、老齢厚生年金(報酬比例部分)の段階的引き上げ中 3-25より)
3. 保険料の引き上げ ⇒保険料水準固定方式
4. 国内総生産(GDP)の増大政策⇒アベノミクス、但し、水もの
あとは、マクロ経済スライドの“強化”になる。
平成24年度、「社会保障・税一体改革」に関連して、年金制度では4つの法律が可決・成立した。
公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律
(年金機能強化法)
・基礎年金国庫負担割合を2分の1に恒久化
・年金の受給資格期間の短縮(25年→10年)、施行日H27.10.1
・パート労働者への社会保険の適用拡大 等
被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律
(被用者年金一元化法)
・共済年金と厚生年金の一元化
国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律
(国民年金法等改正法)
・平成24年度及び25年度の基礎年金国庫負担割合2分の1の維持
・物価スライド特例分の解消 等
年金生活者支援給付金の支給に関する法律
(年金生活者支援給付金法)
・新たな低所得高齢者・障害者等への福祉的給付措置(年金機能強化法の附則に基づくもの)
この中で、
「物価スライド特例分の解消」とは、
かつて特例法でマイナスの物価スライドを行わず年金額を据え置いたこと等により、2.5%、本来の年金額より高い水準の年金額で支給している措置について、早急に計画的な解消を図る。今の受給者の年金額を本来の水準に引き下げることで、年金財政の負担を軽減し、現役世代(将来の受給者)の将来の年金額の確保につなげるとともに、その財源を用いて社会保障の充実を図るものとする。
そして、「マクロ経済スライド」の検討
デフレ経済化においては、現行のマクロ経済スライドの方法による年金財政安定化策は機能を発揮できないことを踏まえ、世代間公平の確保及び年金財政の安定化の観点から、デフレ経済下におけるマクロ経済スライドの在り方について見直しを検討する。
マクロ経済スライドの適用については、物価スライド特例分の解消の状況も踏まえながら、引き続き検討することとなっている。
物価及び賃金が低下傾向である中でのスライド調整率の適用要否を検討する必要はあるのかもしれない。スウエーデンでは実施されているようです。
あと、世代間の公平論に関して、給付は高齢世代中心で、負担は現役世代中心という構造から、「全世代対応型」への転換を進めるとともに、持続可能性と将来の給付の確保に必要な措置を着実に進めるメカニズムを制度に組み込んでいくことが求められるところである。
難しいです・・・・・m(_ _)m
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