「多摩川物語」 (ドリアン助川(明川哲也)著) を読んで
この本は、2011年9月に『大幸運食堂』を改題し、加筆・訂正を加えたものです。
8編の多摩川沿いに住む人びとの物語です。そこに「大幸運食堂」が横軸につながっているのですが、今回、『多摩川物語』と改題されたようです。
とってもよかったです。ひとは完ぺきではない。どちらかといえば不器用な人たちによる、心あたたまる物語でした。
1. 黒猫のミーコ
2. 三姉妹
3. 明滅
4. 本番スタート
5. 台風のあとで
6. 花丼
7. 越冬
8. 月明かりの後に
「黒猫のミーコ」は、冷めきった夫婦、その妻、雅代が自分たちの畑の前で無人販売所を初め、そこに居ついたミーコとの物語。ボクのお気に入りです!
「三姉妹」は、古本屋の店員洋平と三姉妹の家族との物語。物語の最後の一文。
三姉妹の妹と友達になれた洋平へ、「さあ、新しい物語をいきなさい。具体的にいきなさい。洋平さんは一瞬、本にそうささやかれたような気がした。」と書かれていました。イイですネ!
「明滅」は、夫婦不仲のこども達、かっちゃんとマル君との物語。お互いに母子家庭の生活となり、マル君は母親の実家に引っ越すことになります。そこで、最後に、
「これからどんなことがあり、どんな時代になり、どんな大人になろうと、今日マル君と二人で見た小さな光(蛍です)のことは一生忘れない。」イイですネ!
「本番スタート」は、多摩川べりの映画撮影所ではたらく、隆之さんとヨネさんとの物語。撮影中に失敗をした隆之をひげのホームレスが「どうしたって生きていけるんだ。心配すんな!」と励まします。
そして、ヨネさんも、
「映画でな、最初から最後まで幸福な主役が出てきたら、客は怒りだすよ。なぜなら主役ってものは、運命に痛めつけられて、初めて前に進んでいくからだ。ところが現実の人生では、だれもがちょっとしたことでふさぎこんでしまう。自分が主役で、人生こそが本物の舞台だってことを忘れていやがるんだ。窮地に陥れば陥るほど、物語の見せ場だってことをな。まあ、そこに気づかないというのが、普通の人間の感じ方かもしれないがね。だからこそ、映画ってものがあるんだろう。人を“勇気づける”のはやっぱり映画だ。」イイですネ!
「台風のあとで」は、中学三年生、美術部の雅之くんと元イラストレーターで今はホームレスのバンさんとの物語。
「花丼」は、大幸運食堂のマスター 継治さんの物語。”大幸運”というお店をしながらも、お店の経営は行き詰っている中での、こころ温まる物語です。
「越冬」は、父子家庭の父伸彦さん、息子翔くん。母子家庭の母麻子さん、娘綾ちゃんとの物語。最後はハッピーエンド。イイですヨ!
「月明かりの夜に」は、冷めきった夫婦、その妻、良美さんと良美さんの母親正子さん(正子さん自身も離婚をして、母子家庭の中で良美さんを育てられた)との物語。正子さんは亡くなられるのですが、最後に残したラジカセからの良美さんへの言葉、
「今あなたは、なかなか大変な時期にあるようだけれど、それも景色のひとつよ。人間はね、うちのそばの多摩川を流れていく葉っぱのように、岸辺のあらゆる景色を見ていくの。だからいい時も悪い時も、すべての景色を味わうのが人生なんだとお母さんは思うわ。それに、お母さんの人生にはあなたが、良美ちゃんがいてくれました。私はあなたがいてくれて本当に幸せ者でした。良美ちゃん、生まれてくれてありがとう。だめな日はだめな日なりに、毎日を味わって生きていきなさいね。笑っていればいいことよ。笑っていれば、またきっといい景色の日がきますから」
ドリアンさん(明川さん)の本には、いつもこころに響く言葉がちりばめられています。
ありがとうございました!
m(_ _)m
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