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2016年8月21日 (日)

「月の上の観覧車」 荻原 浩著 を読んで

良かったですヨ!

先日、直木賞を受賞された荻原氏、平成23年の短編集になります。

 

「解説」より

人は生まれてからしばらくは、未来を見て進む。

子供の頃は早く大きくなりたくて、十代の頃は将来の夢を描き、二十代では人生の目標を定め始める。未来はどこまでも果てしなく、限りなく広がっていた。二十年後、三十年後を夢想した若き日々。

けれどいつからか、「先」の方が短くなる。

ある年齢を超えると、二十年後や三十年後が自分にあるのかどうか、それまで生きているかを考えてしまうようになる。

それは、悲しい。それは、寂しい。

だから、それに気付いたとき、人は回れ右をするのだと思う。進行方向は変えられないけれど、せめて「先」の限りが目に入らないように、後ろを向くのだと思う。そのとき「先」の代わりに目に入るのは、これまで自分が辿ってきた過去だ。

年を重ねると昔が懐かしくなったり、やたらと昔のことを思い出したりするのは、そう云う理由からなのではないか。

本書に収録されている八作品のうち、四十代以上の主人公が六作品を占める。中にはさらに上の世代もいる。冒頭の比喩で言えば、進行方向を見つめる時代を過ぎ、回れ右をした世代だ。残る二作品も、主人公が深く関わる登場人物は老齢である。

 

「トンネル鏡」では、東京で家庭を構えた48歳の男性が、紆余曲折を経てひとりで故郷に帰る。その列車の中でこれまでの人生を思い返す。

そして最後に、トンネルを抜けた。海が光っていた。

「上海租界の魔術師」の主人公は少女だが、ここで語られるのは若き頃に上海でマジシャンをやっていた彼女の93歳で亡くなった祖父の人生。

そして最後に「やっぱり、この世に魔法はある!」

「レシピ」57歳の主婦の物語。定年退職する夫の帰宅を待ちながら、自分のレシピノートを見てこれまでの恋を思い出す。

そして最後に「離婚して、晴れて一人になったら旅に出るつもりだ!」

「金魚」では、妻を無くして鬱状態になった43歳の男性が、たまたま手に入れた金魚を通して在りし日の妻との日々を回想する。

そして最後に、親指ほどの体と、その体より長いかもしれない、必要以上に大きく蠱惑的な尾びれを持つ二匹が、おずおずと相手に近づき、離れ、また近づく。薄闇に包まれた部屋に、赤い灯が二つともった。

「チョコチップミントをダブルで」は、離婚して妻に引き取られた娘と、年に一度だけ会う男の話だ。どうしてこうなってしまったのか、彼は自分のこれまでを振り返る。

そして最後に、誇らしさに胸を反らして、康介はもう一言付け足した。「チョコチップミントダブルを二つ!」

「ゴミ屋敷モノクローム」では、市民からゴミ屋敷をなんとかしてほしいと言われて出かけた38歳の公務員が、そこに住む老婆 関口照子の思い出に触れる。

そして最後に、関口照子のまだ十代に見える娘の頃の写真は、明るい色の雨傘をさし、両目を弓形にして笑っていた。

「胡瓜の馬」で、40歳になった主人公が回想するのは、故郷にいた頃に恋人として付き合っていた幼なじみの女の子沙那のこと。

そして最後に、沙那の「忘れるなよ」に呼応して、「忘れないよ!」と僕の言葉を聞いて、沙那が笑った。

「月の上の観覧車」は、老境の男性が夜の観覧車に乗って、自分の人生をゆっくりとなぞる物語だ。

そして最後に、「きれいな月だ。いままで見た中で、いちばんの。」

 

思うようにいかなかった過去を振り返り「喪失」を再確認するという切ない物語でありながら、どれも「最後」にはどこか希望のかけらを感じるのは、実は本書が未来に向かって開かれていることの証拠なのである。

 

ありがとうございました!

m(_ _)m

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