「出口のない海」 (横山秀夫著) を読んで
「半落ち」に続き、横山氏は“戦争”の本も書かれていると知り、手にとりました。
「挺身肉薄一撃必殺」(挺身は自分の身を投げ出して事に当たること。肉薄は敵に限りなく近づくこと。一撃必殺は文字通り一撃で敵を倒すこと)と言われた『特別攻撃隊(特攻)』の一つ、太平洋戦争末期の1944年7月に出てきた人間魚雷『回天』の物語でした。
空中からの特攻を『神風特別攻撃隊』と言いますが、海中からの特攻は『神潮特別攻撃隊』と言う。
天を回らし、戦局の逆転を図る。名付けて『回天』。
弾頭に搭載する1.6トンの爆薬。全重量2.0トンのため、8割が爆薬と言うことになる。
1.6トンの爆薬があれば、戦艦、空母といえども一撃で轟沈可能な量とのこと。
そして、戦争末期においては、ベテランの兵士は亡くなっており、学徒出陣として回天の特攻隊員となった、元高校球児「並木浩二」を主人公とした物語。
そして、死を前にしたときの並木の言葉
「日本は降伏して一からやり直すべきだ!一億総玉砕などと言うことにならないうちに。今ならまだ間に合う!」
「他の国に喧嘩を売る為に特攻する人間なんていやしない。国を守ろう、家族を守ろう、そう思うからこそ、あの恐ろしい魚雷に乗り込める。けどな、回天で突っ込む俺たちはいい。それで特攻の任務は果たせる。神にもなれる。だが残された国民はどうなる?皆殺しになるまで戦うのか?俺の家族も、お前の家族もみんな死んでしまうのか?ならば俺たちが何本突っ込んだところで、俺たちが守りたいものは何もなくなってしまうじゃないか」
「だから俺たちで終わりにしてほしいんだ。」
(一つだけ聞かせてください。祖国防衛ではなく、ならば並木少尉はなんのために死ぬのですか)
「俺はな、回天を伝えるために死のうと思う。勝とうが負けようが、いずれ戦争は終わる。平和な時がきっとくる。その時になって回天を知ったら、みんなどう思うだろう。なんと非人間的な兵器だといきり立つか。祖国のために魚雷に乗り込んだ俺たちの心情を憐れむか。馬鹿馬鹿しいと笑うか。それはわからないが、俺は人間魚雷という兵器がこの世に存在したことを伝えたい。俺たちの死は、人間が兵器の一部になったことの動かしがたい事実としてのこる。それでいい。俺はそのために死ぬ。」
「俺なりの理由付けだ。自分から死ぬためには理由がいるからな」
そして、恋人に宛てた最期の手紙。
美奈子へ
なにも本当のことを話さないうちに、さよならすることになってしまった。
ごめんよ。
謝る言葉しか浮かばない。
でも、敢えて言おうと思う。君にお願いがある。
しばらく、僕の分身になってくれないだろうか。
僕が見ることのできなくなってしまったものを、君に見てほしい。
たとえば、今日の夕暮れの美しさを
たとえば、夏の海のきらめきを
たとえば、色づいた柿の赤さを
たとえば、雪で覆われた高円寺の街並みを
僕の代わりに見てほしい。
そうして、美しいものを見ながら一年が過ぎたら、僕を忘れてほしい。
僕を消し去ってほしい。
誰かよい人を見つけて、溢れるような幸せを掴んでほしい。
と。
人間魚雷『回天』
昭和19年(1944年)11月から終戦までの出撃回数31回。出撃隊員、事故による殉職者、搭乗整備員ら145名が回天と運命を共にした。その戦果ははっきりしない。回天特攻によって沈没したはずの輸送船が、米軍の発表では沈没はおろか、攻撃すら受けていないことになっていたりした。日本側もすべての戦果を掴み切れなかった。戦果を挙げた隊員が戻ることのない特攻作戦だから、確かな資料が作れるはずもなかった。
歴史を忘れずに、決して繰り返してはならないと深く心に刻むことができました!
ありがとうございました!
m(_ _)m
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