「君たちに明日はない5-迷子の王子様」 垣根涼介著 を読んで
いよいよ「完結編」とのこと。
残念ですが、今後は垣根氏の新作を楽しみにしたいと思います!
すでに垣根氏の最初の歴史小説「光秀の定理」は読み終わりました!こちらも面白かったです!
さて、
「君たちに明日はない」の主人公、
村上真介は1974年(昭和49年)4月30日生まれ
恋人の芹沢陽子は1966年(昭和41年)生まれ
物語の始まった頃は、真介33歳、陽子41歳でしたが、今は2017年!
今年、真介は43歳、陽子は51歳になります。
熱いカップルという設定で描く時期は過ぎたのかもしれませんネ!
第1巻では、かなり濃厚な!?ラブシーンがありましたからネ!
「あとがき」が印象的でしたのでご紹介します!
「あなたにとって、仕事とはなんですか?」
金のためか、個人の生活の安定・保障のためか、出世のためか、あるいは「大企業に勤めている」という社会的な見栄や誇りを、自分の社会的存在理由の一部とするためか、そういう意味を含めて、個人的な金銭的・社会的な栄華を目指しているか・・・。
ですが、日本の経済がダウンサイジングを余儀なくされている昨今、さらにはグローバリズムの波がすべての国の護岸を絶え間なく洗い削りつつある今では、そうした実利面だけの動機付けで仕事をする事は、その時々の社会情勢や企業の業績によって賽の目がコロコロ変わるリスキーな生き方ではないかと、個人的には感じています。
私の友人や知り合いの人生を長いスパンで見続けてきて、しばしば感じてきたのは、
「金儲けのためだけに仕事をしている人間は、大体の場合、いつかその金に足元を掬われる」ということです。
あるいは、こう言ってもいいかもしれません。
「いつの時代でも、金儲け、あるいは金を稼ぐためだけに仕事をする人間は、永久にその仕事から報われることは無い」と。
その反面で、私は周囲の(別の種類の生き方をする)人間を見続けてきて、こう感じてもいます。
「その仕事に自分なりの意味や社会的な必然を感じている人間には、お金が目的で仕事をしていなくても、不思議と必ず後からお金がついてくる。少なくとも食べるに困らないぐらいは、常に彼あるいは彼女の元に集まってくる」と。
あるいは楽観的に過ぎる見解かもしれません。それでは、この社会の現状でどう生きていくか。
私自身が仕事について深く考えるようになったのは、現在のモノ書きになってからです。そしてしみじみ思うのは、「やっぱりお金のためだけに続けるのは、仕事はツラい」、ということです。この20年間で日本の経済はどんどん悪くなっているし、残念ながらこの先も明るいとは言えません。
テレビや雑誌も「格差社会」とか「終身雇用制度の崩壊」とか大袈裟な見出しを付けて将来への不安を煽ろうとします。けれども、それは給料や昇進などの待遇が悪くなったり、その企業が最悪でも倒産すると言うことで、本来の仕事の楽しさ、それを自分がやる意味とは、別の問題として考えた方がいいのではないでしょうか。
「(仕事を通じて)今を楽しめていない奴は、将来も楽しめないよ」
その通りだと思います。自分の興味が持てることを探して、それを仕事にする。あるいは、その仕事を通じて社会に参加する意味を持てるような自分を、自分の周囲の環境から作り上げていく。そうすれば、とりあえずは食うだけのお金があれば、納得もできるし多少は厳しい現状にも耐えられるのではないか。なによりも現行の「あと出しジャンケン」同然の年金制度に頼らずとも、死ぬまでその仕事を続けてもいいや、と思えるかもしれません。
不透明極まりない現状に対する一番の予防策は、死ぬまで継続しても納得できるような仕事を見つける、あるいはその第二の人生に合わせた環境づくりを自ら行い、社会参加をしていく。そして、あくまでもその結果として物価スライドに合わせた日銭を得ることが、そのような人的繋がりを相互に持つことが、個人個人の最も安心できるセイフティーネットになるのではないでしょうか。
そう云う人間が今後もっと増えたら、不景気とか年金削減とか国民の人口減とかの問題以前に、もう少しは、みんなが明るい顔をしてあるけるような世の中になるんじゃないかな?と思っています。
もし国や現行制度を不安に思うのなら、まずは個人個人でなんとかやり繰りしていこう、自分でできる事(主に仕事)を探し、または作ろう、そして選挙に行こう、という話です。
人の幸せというものには様々な形があると思っておりますが、
「一生現役として、そこそこ楽しく(経済的に自立しながら)仕事を続ける。あるいは一生、人から求められている仕事あるいは社会活動を通じて、この人の世に参加をできる状況にある」ということも、幸せの一つの形である。そういうふうに私は感じています。
できれば読者の皆さんにとっても、そうであって欲しい。
ですが、そうやって色々と考えてきた仕事観や社会観も、結局は現時点での暫定仕様でしかないのだろうと感じています。社会や人間関係が次のフェイズに行けば、これまでの考え方や方法論が通用しなくなって、また自分をリストラ(再構築)していかなくてはならない。
それが「生きていく」ということなのでしょう。
最後になりますが、スペインの思想家オルテガ(1883-1955年)の言葉を引いて、このあとがきの終わりといたします。
「実際の生とは、一瞬ごとにためらい、同じ場所で足踏みし、いくつもの可能性の中のどれに決定すべきか迷っている。この形而上的ためらいが、生と関係のあるすべてのものに、不安と戦慄という紛れもない特徴を与えるのである」 (『大衆の反逆』1930年より)
ありがとうございました~!
m(_ _)m
(単行本)
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