“犬猫だい好き!”なので、さっそく2020年第163回直木賞受賞「少年と犬」 馳星周著 を読んでみた!
馳星周氏の印象は、これまでハードボイルド小説のイメージがあったので、読んだことはなかった。
でも、少し調べてみると、ハードボイルドというよりも、ノワール小説だという。
なにそれ!?その違いを、ちょっと調べてみた。
Wikipedia によれば、ハードボイルド小説は以下のように定義される。
暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体をいい、アーネスト・ヘミングウェイの作風などを指す。また、ミステリの分野のうち、従来あった思索型の探偵に対して、行動的でハードボイルドな性格の探偵を登場させ、そういった探偵役の行動を描くことを主眼とした作風を表す用語として定着した。
例えば、探偵で言うと、フィリップ・マーロウとか、「タフ」で「非情」な人物が出てくる小説を想像することになる。
そして、ハードボイルド小説とノワール小説の違いを明確にするのは難しいということだが、前者が主人公の「キャラクター」に力点を置く作品であるのに対し、後者は主人公を取り巻く「世界」を問題にするタイプの小説であるとのこと。
ハードボイルド小説のなかで、力強いキャラクターとともに読者は現実を忘れるが、ノワール小説の中では、読者は「世界」のなかで苦しむ主人公の弱さに共感することになる。
人間の弱さに共感できるのが、ノワール小説、という事のようだ。
馳星周氏のHPがあった。気に留まったところを整理してみると、
1965年2月18日、北海道生まれ。横浜市立大学文理学部卒。
出版社勤務を経て、フリーのライターに。1996年9月、『不夜城』でデビュー。
■趣味
うまいものを食う。酒を大量に飲む。一日一、二本の葉巻を吸う。高額な腕時計を衝動買いする(といっても、三本しか持っていない)。
■好きなもの
自分の犬。うまい酒。うまい葉巻。うまい食い物。サッカー。競輪。腕時計。ジャンポール・ゴルティエの服。ゴールドのアクセサリィ。
■嫌いなこと
小説を書くこと--書かなければならないという現実。仕事が楽しいなどという人間の気が知れない。
■オフィシャルサイト開設にあたって
わたしは食べていかなければならない。自分の見栄を満足させねばならない。大量に失われてしまったものの代わりに得たなにがしかの安らぎを守らねばならない。なによりも、わたしの中の悪意を、世界に対する呪詛を、物語にして吐きださねばならない。
ならば--大量消費時代にあって、自分がただ消費される一方の存在だと自覚するならば、踊りつづけるしかない。踊り続け、自分の存在を叫び続け、消耗され、くたびれ果て、ある日突然、この世から消えていくのだ。
それもまた、わたしが選び取った世界だ。わたしはわたしの小説の中にわたしの呪詛をこめる。それ以外のこと--すべては神の意志のまま。いうまでもないが、現代社会の神とは金のことだ。我々は等しく、金という神に帰依を誓った狂信者だ。
「仕事は嫌いで、生きていくため、金のために働く、そのために書いている」というのが、ちょっと面白かった!
さて「少年と犬」だが、これもノワール小説だと、感じた。
犬は強く賢く書かれているが、その犬に関わる人間が最初は弱い!それを『多聞』という犬と出会い、触れ合うことで、少しずつ勇気を取り戻して、少し強くなれる、そんな物語でした。
短編集のようになっているが、『多聞』は全編を通じて登場する。
ところで、『多聞』とは!?
多聞 (仏教) - 正しい教えを多く聞き、それを心にとどめること
多聞天 - 仏教における四天王の内の一尊
そして、多聞天は毘沙門天とも言われている。
七福神の一人でもあり、鎌倉時代以降は四天王信仰に変わって、特に毘沙門天として武将の信仰を集めた。財宝をつかさどる神であり、また北方の守り神でもあったとされている。興福寺を含む大和国(やまとのくに)一帯を支配した松永久秀、延暦二十年(801)、征夷大将軍 坂上田村麻呂は激戦の末に蝦夷を平定し毘沙門様のご加護の賜と感じ、百八体の毘沙門像を祀る窟毘沙門堂を先勝の地である達谷窟(たがや)に造り国家鎮護の祈願所とするほど大変な多聞天信仰者であった。
足利尊氏・上杉謙信・楠木正成などの武将も毘沙門天を大変信仰した。
東京の神楽坂の善國寺(ぜんこくじ)というお寺に毘沙門天が祀られている。芝正伝寺、浅草正法寺の毘沙門天と並んで有名で「江戸三毘沙門」と呼ばれる。
この物語のタテ軸(時間軸)は、
「東日本大震災」(2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害およびこれに伴う福島第一原子力発電所事故による災害)が“プロローグ”となっており、「熊本地震」(2016年(平成28年)4月14日(木)、21時26分以降に熊本県と大分県で相次いで発生した地震。最も大きい震度7を観測する地震が4月14日夜(前記時刻)および4月16日未明に発生した)が“エピローグ”になっている。
そして、ヨコ軸(空間)は、岩手(釜石)から熊本までの多聞の道のりで出会った人々との物語が紡がれる。
「男と犬」は、仙台を舞台に生活のために犯罪に手を染めていく過程で多聞と出会った者との物語
「犯罪者と犬」は、仙台から新潟へ。犯罪を重ねていく過程で多聞と出会った者との物語
「夫婦と犬」は、富山を舞台に、生活力の無い夫、一生懸命働く妻との間に、山で出会った(拾ってきた)多聞との物語
「娼婦と犬」は、滋賀を舞台に、どうしようもない男に騙されて娼婦となった美羽が、多聞によって自分を取り戻す物語
「老人と犬」は、島根を舞台に、癌にかかり余命僅かの老猟師と多聞との物語
「少年と犬」は、熊本を舞台に、岩手(釜石)で東日本大震災にあい自閉症となった“光”と“多聞”との物語
人は誰も、一人では生きられない。そこへ寄り添ってくれる“多聞”がいてくれることで、少しでも生きる勇気が湧いて真摯になれる!
ありがとうございました!
m(_ _)m
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