昨夏「世界金融危機(リーマンショック)」を知ろうとして調べていた時には手に入らなかった「強欲資本主義ウオール街の自爆」(2008年10月20日発行)を日吉にある古本屋で昨年末にようやく見つけたので読んでみました~!
著者の神谷秀樹氏は、1953年生まれで、早稲田大学を卒業後、住友銀行に入行、1984年にゴールドマン・サックスに転職、1992年に自ら投資銀行を立ち上げて、現在に至る。
本書「強欲資本主義ウオール街を自爆」を語りながらも、そのウオール街で40年以上、強欲にはなられずに勤められている方となります。
ここでは、“リーマンショック”のこと(昨夏までに自分の中ではある程度理解できたため)よりも、本書でとくに気になったこと、印象に残ったことを記しておきたいと思います。
視点は“世界金融経済史をもっと知りたい”になります~。(笑)
「金融機関は、基本的に脇役であることを失ってはいけない」
例えば、銀行であれば、主役である実業を営む方たちの事業構築を助けるのが金融本来の仕事の在り方であり、それこそが身分相応なのである。
それが、投資銀行(日本で言うと証券会社)は株式公開をして、他人の資本を受け入れ、他人のお金でビジネスを展開するようになった。付け加えれば、多大な借金をしてバランス・シートを巨大にすることが可能になったことで、「顧客」は単なる「市場の一部」となっていった。
モノが作れなくなったアメリカ
第二次世界大戦以後、アメリカは世界でもっとも健全な経済を維持していたと言ってよい。
圧倒的な生産力と生産性を誇り、米ドルは世界の基軸通貨として安定していた。
アメリカの節度ある経済は、世界のロール・モデルであった。
しかし、この経済は、とくに「強いアメリカ」を標榜した1980年代のレーガン大統領以降、奈落の底に向けって突き進み始める。財政赤字、貿易赤字の「双子の赤字」を抱え、結局それを改善できずに債務国となっている。とくに弱くなったのが製造業(自動車産業)であった。
その後、
アメリカの自動車業界のビッグスリーは、GM(ゼネラル・モーターズ)、フォード、クライスラーとなりますが、リーマンショックを引き金に、クライスラーは2009年4月に、GMは2009年6月に破産法を申請しました。
フォードは唯一破産法の申請は免れましたが、大事なブランドを一部売却することで、難を逃れました。当然、痛手であった事は言うまでも有りません。
電機産業のゼネラル・エレトリック(GE)も同様に企業規模は縮小しました。
京セラの創業者の稲森和夫氏は、著書『人生の王道』で次のように述べられている。
昨今の若い経営者は、ベンチャービジネスを起こし、才覚を発揮して成功を収め、上場を果たそうものなら、すぐに自分が持っている株式を市場に売り出し、巨万の富を得ようとします。(中略)ところが、そんな大成功を収めたはずの人が、いつのまにか没落してします。私たちは近年、そのようなケースを沢山見てきました。それは、成功することで、“私心”をはびこらせ、没落の引き金を引いてしまうからです。
マネックス証券を創業した松本大(おおき)さん(1963年12月19日生まれ)は、その昔ゴールドマン・サックスで働いていました。そして、1994年に「パートナー」という株主に選ばれましたが、彼はゴールドマンが株式公開(1999年5月4日)を行う寸前に退職し、ソニーと一緒にマネックスを創業(1999年4月5日)した。多くのマスコミは、なぜ大金をつかめる株式公開を待たないで退職したのかに関心を寄せた。彼は、その質問に対して、たしか次のような趣旨の話をしていた。
「ゴールドマンの代々のパートナーと社員が努力して積み上げてきた資本を受け継いだ自分が、それを次世代にそのままの形で渡すのではなく、今後何十年分かの利益に相当する価格で売ってしまうようなことをしては、今後自分がよい人生を過ごせるとは思わない」
松本さんは、株式公開益を自分の懐に入れることを、自らの人生の選択として「潔し」としなかった。
松本氏、35歳のときである。
一方で、同じくゴールドマン・サックスに居長らえて、大金を手に入れたのが、ジョージ・W・ブッシュ政権で第74代財務長官を務めたヘンリー・ポールソン氏(1946年3月28日生まれ)である。
1990年にポールソンはゴールドマン・サックス社の投資銀行部門において経営担当責任者となり、1994年12月にゴールドマン・サックス社の社長兼最高執行責任者に昇格した。
そして、1999年の株式公開を経て、
2006年6月28日にポールソンはアメリカ合衆国財務長官(2006/7/10~2009/1/20)への就任のため、ゴールドマン・サックス社の会長兼最高経営責任者を辞任した。
辞任に際してポールソンにはゴールドマン・サックス社から会計年度の上半期分のボーナスとして1870万ドルが支給された。またポールソンは自身の保持するゴールドマン・サックス社の323万株も売却した。時価総額は約4億8600万ドルであった。
政府高官になると、民間との利益相反関係を防ぐために、持株を売却するよう求められる。これは強制力をともなうため、売却した株式の値上がり益には課税されないという特典がつく。
安月給で忙しい政府高官になる最大のメリットは、この「タックス・ホリデー」をもらえることだと言えわれる。
「タックス・ホリデー」狙いで政府高官になった役人に、公平な社会づくりを期待できるのだろうか!?
ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得後、証券大手ソロモン・ブラザーズに勤務し、同社共同経営者(partner)に登り詰めたが、1981年に金融情報のブルーム・バーグを設立し、さらにその後ニューヨーク市長になったマイケル・ブルームバーグ氏(1942年2月14日生まれ)も市長として、昼夜を問わず働かれたが、最初の当選から公約通りに「無給」でお仕事して、ブルームバーグ社の株は信託に入れて売っていない。後半生を社会へ還元するために費やしている。ニューヨーク市がブルームバーグ市長を得ることができたのは極めて幸いなことだった。お金に惑わされない市長の言うことには強い説得力があることだろう。
世界金融危機という事態を招いたのは、国でもなく、納税者でもない。自分たちが儲けることしか考えないで、調子に乗って手を広げたビジネスで演じた失態が危機を招いたのだ。
その証としてアメリカでも、ノースウエスタン・ミューチュアル・ライフはサブプライムローンの総資産に占める比率は0.6%以下であり、彼らが持つ最高格付けはまったく揺らいでいない。
同じ保険会社でも破綻し政府に救済されたAIG(全米最大、2008年9月21日までダウ平均株価の構成銘柄の1つ)とは大きな違いである。
このように超健全経営をすることも全く問題なく、可能なのである。
より強欲な者に富を集中させ、お金以外の価値あるものがないがしろにされ、社会全体として格差が拡大し、決して幸福とは言えない状況を生み出しているのではないだろうか。
アメリカでは上位10%の所得は年率11%で伸びてきたそうだ。しかしその同じ期間、残り90%の人の所得は全く伸びなかった。こうして格差は拡大する一方だったのだ
ある文明史の研究家によれば、上位1%の人に富の30%が集中するとき、だいたい大きな崩壊が起こる臨界点となるようである。
現代の較差はアメリカだけをとってみても、このレベルに達している。強欲資本主義が迎えた「信用の輪が切れるとき」は、これまでの経済体制が辿り着いた終着駅のようにも思えてならない。
下村治博士(1910年11月27日~1989年6月29日、享年78歳)の卓見
アメリカの「双子の赤字」(貿易赤字(経常赤字)と財政赤字が並存していた状態。借金と浪費に依存した経済)がやがて立ち行かなくなると警鐘を鳴らした経済学者であり、
池田内閣時代に「所得倍増計画」を構想し、日本の発展の礎を築いた経済学者でもある。
また、その後の日本については、高成長を目指せる時代は終わったことを覚り「ゼロ成長論者」となった。
また、日本の市場開放を強硬に求めるアメリカ政府に対して、1987年にレーガノミックスを痛烈に批判し、アメリカ追随型の経済政策の提案であった「前川リポート」も「日本の健全さを捨てさせるものだ」と受け入れなかった。
そして、バブル経済とその崩壊も予測をされていました。
よって、「ゼロ成長」を現実のものとして受け止めなければならないのである。
身の丈にあった新しい生き方を見つけることではないだろうか。
「ゼロ成長時代の生き方」
「ゼロ成長時代に目標とする新たな指標」
「何を以て成功とするのか、その成功の定義」
を自ら考え見出さなければいけない時代にいま我々はいるのである。
ルネサンスの生んだ土と水と光
塩野七生氏はルネサンスの大輪の花が咲くための「土と水と光を整えたのは、宗教家の聖フランチェスコと政治家のフリードリッヒ二世であった」と分析している。
『ルネサンスとは何であったのか』新潮社刊より
聖フランチェスコが第一に重んじたのは「貧しさ」であり「財を持つことの否定」だった。
一方、フリードリッヒ二世が行った改革は「税制の整備」と「通貨の整備」であった。信用度の低い「悪貨を乱造しては眼前の利益をむさぼるしか考えなかった王侯が大半であった当時、良貨(純金製)を持つことの真の利益を知っていた。」
“お金に囚われるなという価値観”、“しっかりとした税制と信用度の高い通貨の復興”、また“学問(芸術と科学)の振興”とは、現代に生きる我々が、まさに必要としているものそのものではないだろうか。
「信用の輪が切れた」今、我々が目指さなければいけないのは、たとえ長い道程を必要とするものであっても新しい時代を迎えるための、土と水と光を準備することに違いない。
ありがとうございました~!
m(_ _)m
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