「どうする財源~貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」中野剛志著を読んでみた!あなたはリフレ政策(現代貨幣理論(MMT))派、それとも財政健全化(緊縮財政)派!?『現代貨幣理論』、半分は正しいと思いましたヨ!(笑)
“財源”をどうするか、に焦点を絞って論じていました。
例えば、防衛費の金額の妥当性や、防衛費の中身については議論から外しています。
以下、青字部分は私見(感想)になります
「商品貨幣論」とは、貨幣にはもともとは金貨や銀貨のように、それ自体に価値があるモノを交換手段とした考え方
「信用貨幣論」とは、貨幣とは負債の一形式であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債であるとした考え方
要するに、貨幣というものは、単なる信用と負債の関係を記録する計算単位にすぎないということ(P42)
本書では、貨幣は物々交換から生まれたのではなく(そのような史実がないため)、紀元前3,500年頃のメソポタミア文明において、信用と負債の関係の記録として生まれたことから、「信用貨幣論」が正しいとされています。
また、現代経済において流通する貨幣の大半は、現金ではなく、銀行預金です。
例えば、日本でも、貨幣のうち、現金が占める割合は2割未満しかありません。
民間銀行はいかにして貨幣を生み出すか
民間銀行は、貸出しによって、預金という通貨を生み出すのです。
これを「信用創造」あるいは「貨幣創造」と言います。貸出しが貨幣(預金通貨)を創造するのです。
そして、反対に債務が返済されると、貨幣は破壊されます。
2019年4月4日の参議院決算委員会において、西田昌司議員と黒田東彦日銀総裁の間で、次のような、やりとりがありました。
西田委員「銀行は信用創造で10億でも100億でもお金を創り出せる。借入れが増えれば預金も増える。これが現実。どうですか、日限総裁」
黒田日銀総裁「銀行が与信行動をすることで預金が生まれることはご指摘の通りです」
しかし、実際には、民間銀行の貸出しには制約があります。
それは、貸出先である企業に、返済能力がなければならないという制約です。
民間銀行は、貸出にあたっては、企業に対して与信審査を行い、将来、債務を返済できるのに十分な収入が見込めるかどうかを、厳しくチェックします。
逆に言えば、貸出先の企業に返済能力がある限り、民間銀行は、いくらでも貸出を行うことができ、貨幣を創造することができるということになります。
20世紀最大の経済学者の1人と言っていいジョセフ・アロイス・シュンペーターは、資本主義とは、次の3つの特徴を有する産業社会のことであると定義しました。
①物理的生産手段の所有
②私的利益と私的損失責任
③民間銀行による決済手段(銀行手形あるいは預金)の創造
この3つの特徴のうち、③の「民間銀行による決済手段の創造」こそが、資本主義の定義の中でも特に重要であるとシュンペーターは行っています。
「資本」を自ら生み出す経済システムだから「資本主義」と呼ばれると言えるのでしょう
資本主義においては、民間銀行が貸出しによって預金という貨幣を創造し、その貨幣が取引や貯蓄の手段としても使われ、経済の中を巡り巡っていきます。
その資本主義における貨幣の循環に着目したのが、「貨幣循環理論(Monetary Circuit Theory)」です。
①企業への支出が先で、返済のための財源となる収入は後
②企業の財源とは、企業の需要である
③企業の収入により返済がされると、貨幣は破壊する
④すべての企業が完済してしまうと、貨幣がこの世から消えてしまう
デフレ(デフレーション)とは、一般的には、一定期間にわたって、物価が持続的に下落する現象のこと
インフレ(インフレーション)とは、一般的には、一定期間にわたって、物価が持続的に上昇する現象のこと
デフレとは、経済全体の需要(消費と投資)が、供給に比べて少ない状態が続くことで引き起ります。
企業の需要が無ければ、民間銀行は貸出し(貨幣の創造)ができません。貨幣が創造されなければ、企業は支出できず、従業員の給料も増えません。経済は成長できずに、縮小していくことになります。
また、貨幣の破壊もすすむことになります。
デフレになると、銀行は貸出し(貨幣の創造)ができず、企業は返済(貨幣の破壊)に走らざるを得ないので、貨幣がこの世から消えていってしまうおそれがあります。
そういうデフレのときに、政府までもが財政支出を抑制し、政府債務の削減(財政健全化)に努めたら、貨幣がさらに消えて、デフレが悪化します。
政府が債務を負って支出を増やすことは、貨幣を創造し供給することになるのです。
戦後、唯一、日本だけが、1998年にデフレに陥り、しかもそれから20年以上も、デフレから抜け出すことができなくなりました。
一方、2022年あたりから物価が上がって、デフレというよりはインフレになっていますが、日本経済は成長し始めているのでしょうか。
これについてはP145で、世界インフレとしては、コロナ禍による労働者不足、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする食料やエネルギーの供給制限、経済安全保障の強化を挙げられていました。
それが、日本の2021年から2022年にかけての日本のインフレの原因と言われていました。
いわゆる、「スタグフレーション」だと思いますが、果たして、そうでしょうか。それだけでしょうか!?
日本の場合、2013年から続く超低金利と異次元的金融緩和(貨幣の創造に相当)によるところもあると思っています~!
政府部門を考慮に入れた貨幣循環について
①政府支出が先、税収が後
②政府の財源=中央銀行(日本銀行)による貨幣創造=政府の需要
③税は、政府支出の財源確保の手段ではない
④政府の徴税と返済が、貨幣を消滅する=財政健全化とは、貨幣の破壊である
⑤すべての企業と政府が債務を完済すると、この世から貨幣が消えてしまう
日本政府は、貨幣(円)を創造し、徴税権力もある政府です。
したがって、日本の財政が破綻する(債務不履行に陥る)ことはありません。
→徴税権力があるから、日本政府は破綻しないって、現実的にはいくらでも徴税できるわけではないので、これだけで債務不履行となることはないと言及するには弱くないでしょうか!?
ここは、定性的な意見となり、申し訳ございません。m(_ _)m
現代貨幣理論(Modern Monetary Theory、通称MMT)
MMTは、政府と中央銀行を一体として「統合政府」とみなした上で、財政支出と徴税の流れを説明しています。
MMTは、政府(統合政府)が貨幣を創造したものとします。
あとは、「貨幣循環理論」と共通しています。
両方とも、“税”は貨幣を成立させる上で必要ではあるが、政府支出の財源を確保する手段ではないとしています。
政府の財政支出は、無限に行うことはできません。
政府の財政支出を制約しているのは、資金の制約ではなく、ヒトやモノといった実物資源の利用可能量となります。
増税によって財源を確保しようが、倹約(歳出改革)によって財源を確保しようが、領民経済は成長しません。
それは、徴税により、領民から奪ってきた貨幣を支出せずに貯め込むことであり、領主が支出していれば得られたであろう貨幣が、領主の倹約により手に入らなくなるためです。
“増税”や“歳出改革”によって財源を確保するという発想は、資本主義以前の社会における封建領主の発想になるのです。
実際の政府は、不況で経済成長率が鈍化した時こそ、財政支出を増やしています。
いわゆる「景気対策」です。
例えば、2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際、各国は、巨額の財政出動を行いました。経済成長率が著しく低下したから、財政支出を増やしたわけです。
さらに、2020年に新型コロナウイルス感染症でパンデミックが起きて、深刻な不況に陥った際も、各国は財政支出を急激に増やしました。いずれも経済が成長しなかったから、財政支出を増やしたのです。
「健全財政」の方が経済成長するのであれば、経済成長率は高いが、財政支出の伸び率は低い国があってもよいはずですが、ありません。
「健全財政」の模範とされるドイツは、財政支出の伸び率は相対的に低いですが、同時に、経済成長率も相対的に低くなっています。
実物資源の量の制約は、どのようにして計測するのでしょうか。
その指標のひとつとなるのは、インフレ率(物価上昇率)です。
そこで、政府は、インフレ率が高くなり過ぎないように、財政支出を制限する必要があります。
インフレ率など、国民経済に与える影響を基準にして運営するという考え方を「機能的財政」と言います。
MMTも、この「機能的財政」の考え方を組み込んでいます。
自ら貨幣(自国通貨)を創造できる政府は、予算の収支を均衡させる「健全財政」を目指す必要はない。
その代わりに、財政支出を増やすか減らすか、課税を軽くするか重くするか、国債を発行するかしないか、と言った判断は、それらが国民経済に与える影響を基準にすべきである。
これが、「機能的財政」です。
「健全財政」と「機能的財政」、2つの考え方
例えば、「健全財政」では、財政赤字は常に悪いものとみなされています。そして、財政黒字は常によいものとみなされます。
しかし、「機能的財政」では、財政支出を増やしたり減税したりして、景気がよくなり、失業がへるのであるならば、その結果、財政赤字になったとしても、その財政赤字は良いものなのです。
ただし、財政支出の増加や減税によって、景気が過熱し、需要が増えすぎて供給が追い付かなくなり、高インフレになって、国民は苦しむ結果となったとします。この場合、財政赤字は、高インフレを引き起こしたからという理由で、悪いもの、減らすべきものだと判定されるのです。
「機能的財政」では、財政赤字(or黒字)が国民を幸福にするなら善、不幸にするなら悪となります。
結果として、デフレが続いていた日本は、財政支出が全然足りなかったということです。
言い換えれば、利用可能なヒトやモノがあったのに、利用されずに放置されていたということです。
「機能的財政」における税の考え方
“税”というものは、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、国民経済を望ましい姿にするための政策手段なのです。
たとえば、税は所得格差を是正する上では、効果的な政策手段です。
より平等な社会を実現するための政策手段として、必要になります。
富裕層の所得や贅沢品の消費には、課税をより重くし、貧困層の所得や生活必需品の消費に対しては、非課税あるいは税率の軽減とすれば、所得格差が是正されるため、です。
一方で、デフレ下での消費税増税は、消費を抑制することになり、まったく意味が無いと言っています。
また、最近の防衛財源の確保のために、(経済成長を前提とした)増税に頼るのではなく、国防に必要な財源として、政府が債務を負って貨幣を創造すれば財源を確保できるとも言っています。
但し、追加的な税の負担はしなくてもよいのですが、実物資源の制約により、高インフレという負担がかかってくることになります。これは、「今を生きる世代全体が分かち合っていくべき」ものとなります。
MMTは、機能的財政に基づき「財政支出は、高インフレにならない限り、拡大できる」と論じています
固定為替相場制という制約
政府の通貨供給には、固定為替相場制という制約が課せられている場合があります。
固定為替相場制の下では、政府は、自国通貨との交換の要求に応えるために外貨を常に準備しておかなければなりません。つまり、自国通貨の発行量には外貨準備という制約が課せられているのです。
19世紀から20世紀前半にかけて、金本位制という固定為替相場制が存在していた頃は、各国政府の通貨発行と財政支出には、金準備という制約が課せられていました。
また、第二次世界大戦後から1973年までは、資本主義諸国は、ブレトンウッズ体制という固定為替相場制の下にあったので、各国の財政政策には、ドル準備という制約が課せられていました。
1971年、戦後のブレトンウッズ体制から続いてきたアメリカドルを基軸通貨とした固定相場制の世界経済が崩壊
日本政府は、自国通貨と外貨(あるいは金)との交換比率が固定されていない変動為替相場制の下であれば、制約はありません。
政府は、無制限に自国通貨を発行する能力を持つことができるのです。
そこで、日本政府は財政破綻(債務不履行)に陥ることはないのです。
たとえば、アルゼンチンやギリシャの財政危機や高インフレは、多額の外貨による対外債務(非自国通貨建て債務)に該当します
但し、ここでも実物資源の供給の制約はあります。
政府支出を野放図に拡大し続けると、いずれ、実物資源の供給制約にぶつかることになります。
財政支出が実物資源の供給制約を超過すると、高インフレが引き起こされるでしょう。
高インフレとは、実物資源の供給がその制約に達したことを示すサインなのです。
2つのインフレ
「デマンドプル・インフレ」
需要が実物資源の供給制約を超えた原因が、需要の増大にあるインフレ
財政支出による需要の増大(例えば、公共事業、公共工事などの増大でしょうか)が実物資源(ヒト、モノ)の供給制約を超えることで起きるインフレ
少なくとも、戦後の先進民主国家で、過剰な財政支出を続けて「デマンドプル・インフレ」が止まらなくなった例は無いとのこと。
「デマンドプル・インフレ」が止まらなくなって国民が苦しんでいるのに、なお過剰な財政支出を続けるような愚かな政権は、民主国家では、有権者の支持を得られるはずが無いからです。
「コストプッシュ・インフレ」
実物資源の供給制約がより厳しくなったことに起因するインフレ
例えば、1970年代の石油危機のように産油国が原油を輸出制限したため、エネルギー価格が高騰してインフレになった場合
→言葉の意味で恐縮ですが、「コストプッシュ・インフレ」とは「スタグフレーション(景気が下がり物価が上昇すること)」のことではないでしょうか!?
この場合の対策は、短期的には省エネルギーの徹底や、既存の原子力発電の稼働、長期的には新たなエネルギー源の開発が必要になるでしょう。
コストプッシュ・インフレ対策に必要なことは、政府による、的を絞った公共投資になります。
政府の赤字財政支出により、民間貯蓄が減るのではなく、その反対に増えるのです。
2002年に、海外の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げました。すると、当時の財務省は、格付け会社(ムーディーズ、S&P、フィッチ)宛てに、公開質問状を発出した。
そこには次のように書かれています。
貴社の格付け判定は、従来より、定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい。
日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
このように、財務省は、自国通貨建てである日本国債のデフォルト(債務不履行)は考えられないと認めています。
アメリカでは、政府債務の上限が法定されていますが、議会の承認が得られれば、上限を超えて国債を発行することができます。
ドイツは憲法(基本法)によって、連邦政府は、対GDP比財政収支を原則マイナス0.35%以内にしなければならないと定めています。但し、不況時には新規国債発行の増加が認められ、好況時にはその減少(または財政収支の黒字化)が求められるといったように、景気の好不況に配慮しています。さらに「自然災害又は国家の統制が及ばず、国家財政に甚大な影響を与える緊急非常事態の場合」には、財政ルールの適用を停止できることとされています。実際、2020年とその翌年には、コロナ禍に対応するため、この一時停止措置が発動されました。
日本においても、アメリカやドイツと道央に、法定の財政規律が存在します。それは、「財政法」です。
財政法第4条
国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。
但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる
二、前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない
三、第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない
日本において、アメリカやドイツの財政規律に対応するのは、財政法第4条であります。
財政法第4条は「但書」はあるものの、国の歳出の財源を国債に頼ってはいけないという健全財政が原則であると規定しています。
この規定は、赤字財政は戦争につながるという論理から来ているとのこと。
財政法の起案者となった大蔵省法規課長であった平井平治氏は、こう解説しています
「戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史を紐解くまでもなく、わが国の歴史を観ても公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば、明らかである。また我が国の昭和7年度以来の公債を仮に国会が認めなかったとするならば、現在の我が国は如何になっていたか言わずして明らかである。換言するならば、公債のないところに戦争はないと断言しうるのである。従って、財政法はまた、憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものとも言い得る」
護憲派が憲法第9条を変えたら、日本人は侵略戦争に突き進んで破滅するのではないかと心配しているように、健全財政論者たちは、国債の発行を許したら最後、日本人は破滅への道へと突き進むのではないかという不安にかられているのではないか。
一方、2022年、日本は、ついに防衛費を大幅に拡充しなければならないという事態に陥りました。
憲法第9条と財政法第4条の問題が一度に噴出した。
我が国は、まさに歴史的に大きな岐路にさしかかっているのです。
さらに日本の場合には、財政法第4条に加えて、閣議決定により、プライマリーバランス黒字化目標という財政収支ルールが課せられます。
これは、ドイツの財政収支ルールと同じようにも見えますが、ドイツよりも厳しい財政規律となっています。
ドイツのルールは、財政収支の対GDP比を目標として設定しています。従って、例えば、財政支出を拡大してもGDPが成長した場合には、数値は改善するという余地があります。
これに対して、日本のプライマリーバランス黒字化目標は、対GDP比ではないため、GDPが成長することで数値が改善するという余地がありません。
財政収支のルールを財政規律にする場合は、対GDP比財政収支とするのが一般的であり、EU諸国も対GDP比財政収支のルールを採用しています。
日本の対GDP比ではない「プライマリーバランス黒字化目標」の財政規律こそガラパゴスと言えるでしょう。
第一次世界大戦をきっかけに、各国が金本位制を離脱する中、日本も1917年に金輸出を禁止し、金本位制から離脱しました。
戦後、各国が金本位制に復帰する中、日本は1927年に(昭和)金融恐慌に見舞われたこともあって、復帰が遅れていました。
1929年に成立した浜口雄幸内閣は、金解禁(金本位制への復帰)を目指しました。
そして、井上準之助を大蔵大臣に任命し、緊縮財政を実行し、1930年に金解禁を断行しました。
この緊縮財政は、同年昭和恐慌を招き、倒産や失業が急増、農民と中小企業者には深刻な打撃となりました。
さらに、浜口雄幸は暗殺されました。
そして、金本位制への復帰を果たした後の1931年9月に満州事変も勃発。
苦境にある国民を救うことよりも、財政規律を優先させ、国債発行を禁じ手とするような頑迷な健全財政が悲惨な戦禍を招いたのかもしれません。
1931年12月、犬養毅内閣が成立し、高橋是清が大蔵大臣に任命されると、大きな方向転換が行われました。
高橋蔵相は、金本位制から離脱して、積極財政へと転じ、国債を発行したのです。
1932年から1936年までの間に、GNPの5%を超える財政出動を継続しました。
1931年から1936年にかけて、国民所得は60%増加し、1936年には完全雇用を達成しましたが、消費者物価は18%の増加、物価は安定していました。
こうして日本は、世界恐慌の下にあった当時、世界で最も早く恐慌から脱出することに成功したのです。
高橋財政は、財政赤字の拡大をもたらしました。このため、当時、財政赤字の拡大を心配して、増税を求める声が上がっていました。
しかし、高橋は1933年に次の発言をしている。
「現内閣が時局匡救(じきょくきょうきゅう、匡救とは“悪を正し、危難から救うこと”)は、財界回復のために全力を傾注しつつあるこの際、増税によって国民の所得を削減し、その購買力を失わせることは、折角伸びようとしている萌芽を剪除する結果に陥るので、相当の期間までこれを避けることを認める次第であります」
高橋是清は、信用貨幣論を概ね理解しており、通貨というものが需要によって創造されるということも理解をしていた。
しかしながら、高橋是清は、1936年、2・26事件で暗殺された。
高橋財政の末期、軍部からの軍事費の要求を拒否して、軍部と激しく対立したが、それが暗殺の引き金になったのではないかとも言われています。
高橋財政の時、荒木貞夫陸軍大臣は、軍事費の拡張のための財源を確保するため、高橋蔵相に対して、増税を要求していましたが、高橋は増税を拒否していました。
そして、高橋亡き後、日本は軍事費の拡張を加速させ、戦争への道を突き進んでいくことになります。
次に終戦直後の激しいインフレは、どうして起きたのでしょうか
終戦直後のインフレ処理を実際に経験し、かつ高度成長を実現した池田勇人内閣のブレーンとして活躍した下村治氏が、その原因を次の3つと言われていました。
第一は、戦争による「異常な生産力破壊という状況」にあったこと
第二は、当時の税務当局の徴税力の欠陥
国家の徴税権力が弱ければ、通貨の価値も暴落し、激しいインフレになると
第三は、当時は労働組合の政治力がきわめて強く、賃金上昇圧力が過大であったため
この3つの原因のうち、最大のものは、戦争による生産力の破壊がもたらした供給不足であると下村は判断しています。
つまり、終戦直後のインフレは「コストプッシュ・インフレ」だということです。
そこで、下村は、「実際の生活水準を落とすのではなく、生産力を高めて生活水準に適合させていくというのが現実的な方策である」と考えました。
当時、大蔵大臣であった石橋湛山も同じ考えでした。
この石橋湛山の積極的な財政金融政策について、下村は、需要増による一時的なインフレ悪化という弊害はあるものの、生産力を強化するものであるとして、これを支持したのでした。
このとき、下村が得た「歴史の教訓」は、「生産増強以外にインフレ収束の途はない」というものでした。
つまり、積極財政によって、供給力を増強し、実体経済の需給不均衡を解消するのが、正しいコストプッシュ・インフレ対策ということです。
財源を“徴税”によって確保しなければならないとか、“歳出改革(倹約)”によって捻出しなければならないとか言った考え方は、資本主義以前の、貨幣を創造する能力を持たない封建領主の考え方なのです。
(感想)
人の批判はせずに、純粋に持論を展開されれば、よりよかったと思いました。
また、本書の考え方はアリと思いましたが、“はじめに“で書かれていました、財源をどう利用するかを問うていないことが、経済対策を考える上で、十分ではないように思いました。
例えば、2013年から続く「異次元的金融緩和」は十分な財政支出(日銀の負債残高は2013年時点で200兆円弱でしたが、現在は約800兆円です)であったと思います。
大半が株式市場に資金投下がされていて、最近ようやく日経平均株価がバブル期を上回り、インフレ傾向にありますが、生活格差(金持ちはより金持ちに、そうでない人はそれなり(以下)に)が拡大するだけで、一般庶民の生活には悪影響があっても好影響はないと思っています。
これは、金融緩和(財政支出)先、あるいは方法に問題があったためではないでしょうか?
防衛費確保のためにも、財政支出をすればよいとのことですが、防衛費のみに財政支出をして、経済成長するのでしょうか!?軍事産業のみ反映するかもしれませんが、生活のための経済成長が制約されれば、デマンドプル・インフレが起きるのは、本書にも書かれている通り、間違いないとは思いました!
また、1988年の平成バブルは、“金利政策”による過去最低の公定歩合2.5%が原因の一つとして引き起こされました。
その後、過熱したために、公定歩合を5%まで引き上げたこともあって、最終的にはバブルが弾けました。
その後景気回復のために、公定歩合を2.5%よりもさらに低く、0.3%まで引き下げましたが、二度と平成バブルのようなことは起きませんでした。
これを「現代貨幣理論」に基づき、財政支出が少なかったため、と言い切れるのでしょうか。
おそらくですが、その時点時点で周辺環境も異なっているため、過去の経済対策を、同じように実施しても、同じ結果にはならない、この点も考慮する必要があるのだと思いました。
本書のさらなる改定を望んでおります!どうもありがとうございました!!
m(_ _)m
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