瀬戸内寂聴さん(1922年5月15日~2021年11月9日、享年99歳)が51歳で得度される前年に出版、40歳から50歳までに書きためられたエッセイ「ひとりでも生きられる」を読んで
気になったところを書き留めておきたいと思います。
年のとり方は、木の葉と同じ。散る間際に木の葉は美しく鮮やかな色になるでしょう。人間もそうありたいと思います。
わたしの周りの老女たちの夢のはなやかさに圧倒され、彼女たちに逢うたび、私までいつでも心が華やいでくる。
英雄色を好むということばは、何かめざましい仕事をするくらいの活力のある男は、生命力も人並み外れて情熱的にならざるを得ない、という説明のような気がするが、男と女の愛し合う心の根には種族保存の願望がひそんでいるのだから、生命力と情熱が自然に一致するのは致し方のない因果のように思われる。
この一度きりしか味わえない人生で、ひとつでも多く心にかかる出逢いにめぐり合うことは、決して不幸ではないと信じる。
万一、ひとつの出逢いにめぐり合ったばかりに、その人の運命が思いもかけない波乱の中に投げ込まれ、生活の秩序がかき乱されてしまったとしても、長い目で見た場合、そういう人は、その出逢いをさけたところでまたもうひとつの似たような出逢いに逢う運命に置かれていたことに気づくだろう。
大切なのは出逢いによってもたらされる、得とか損とかいう決算勘定ではなく、ひとつの出逢いがひとりの人の人生に、どれほど深い想い出を刻みつけ、物を感じさせ、考えさせ、自分のエゴと他人のエゴのかかわりあいの厳しさを思い知らされたかということにあるのではないだろうか。
最初の出逢いを人は記憶することが出来るが、最後の出逢いは死の瞬間まで人には残されている。最後に出逢うものが、人であるか、思想であるか、慰めか、悔いか、はたまた神であるか、誰が知ろう。それだからこそ、人は今日の午後の・・・明日の・・・出逢いを心震わせ待ち望むのである。
愛とは現在にしかないものだ。
本当に愛が無償ならば、相手の心変わりを示された時、辛くても悲しくてもおとなしく身を引き、相手に通路を与えてやるのが本当のように思う。
これがなかなかできないと・・・
人間の心の奥底にかくされているものは当人自身にさえ、すべてはいつでもわかっていないのではないだろうか。
人間のきめた人間の愛の約束ごとの形式などいたってもろいものである。男と女の結びつきなど、明日はわからないはかないものだと思う。
人間は死ぬ直前まで、人を裏切ることの出来る弱い愚かな生物であるという自覚の許に、明日崩れ去るかも知れない今日の愛を守る情熱が湧くのである。
永遠の愛など決して存在しないことを知っているからこそ、今日、この瞬間の愛の大切さを一滴もこぼさず味わい尽くそうとする。
年老い、孤独に、どこかで行き倒れる死を迎えたとしても、自覚して、この道を選びとった愛の歴史には悔いは残らないだろう。
死の床でしっかり手を取られていても、人はそこに繋ぎとめられず、必ず生まれた時と同じくただひとりでこの世を去っていくのだから。
何度愛したかということが、その生涯にとっては意義のあることだ。
人間の男女の間におこるラブアフェアなど、どんなに特異にみえても、必ず、どこかの誰かもやっている、類型的なものにすぎない。大切なのは、その事件をとおして、当事者たちが、どう生きたかが問題なのであって、不可解な自分を識るというチャンスは、思いがけない時、不用意に襲ってくるラブアフェアの渦の中でこそ、一番、恵まれているように思われる。
愛のかたみは、互いに切りつけあった深い心の傷あとである場合もある。
永遠に残るものは、肉ではなく、精神の遺産だけなのである。
ありがとうございました!m(_ _)m
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